13.慰める

味見用に小皿へよそったスープはふわりと白い湯気を立てながら、その場で揺れる。

二度息を吹きかけ、ティトレイはそれを口へ運んだ。

満足のできる味に仕上がっている。

よし、と大きく頷き、ティトレイはそれを器へよそった。

最後にスープの中央に飾りを乗せれば完成だ。

食欲をそそるその香りにティトレイはもう一度頷いた。

これならきっと大丈夫だと。

器を盆に乗せ、それを目的の部屋へと運ぶ。

扉を叩いても返事はないが、ここにいることはわかっていた。

仕方ないと返事のない部屋へ足を踏み入れた。


「よっ、ヒルダ」

「……何よ」


カーテンで光を遮った薄暗い部屋。

長時間座るには向かない木の椅子に座ったヒルダは、暗い瞳をティトレイに向けた。

昨夜はろくに眠っていないらしく、わかりやすく顔に出ていた。

その方が助かるとティトレイは思う。

すべてを「いつも通り」の中に隠されてしまったら、きっと気づけないだろうから。


「昨日からろくに何も食ってないだろ。これなら食べられるかと思ってさ」


そう広くない部屋だから、すぐにその香りが隅々まで広がった。

ヒルダは向けた視線を逸らさなかったが、あからさまなため息をついて見せた。

その態度に少しムッとしたが、スープの入った皿を彼女の前に出す。


「ほら。おれの気持ちが目一杯詰まった5つ星のスープだぜ」

「……あんたの気持ち? つまりは、毒ってわけ?」

「あのなぁ、文句は食ってから言え」


押しつけるように更に突き出した。

ヒルダは目を丸くして、けれどフッと笑いそれを受け取った。


「じゃ、いただきます」

「おう。心して食え」


ヒルダはスープをそっとスプーンへ乗せ、ゆっくり口に運ぶ。

銀のスプーンが彼女の唇に触れた。

それらすべてがスローモーションのように見える。


「……まあまあ、ね」

「素直に美味いって言えないのか?」

「あんたこそ、素直に慰めに来たって言えないの?」

「えっ!!」


ヒルダはまた笑った。

そして、スープを口へ運ぶ。


「あんたを見てたら、何かどうでもよくなってきたわね」

「どういう意味だよ」

「……ありがとう、ってこと」


向けられた彼女の瞳に見つめられ、ティトレイは自分の居場所を見失ってしまった。






な ぐ さ め る



2011/09/13




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