19.寂しがる

リタは思い切り唇を噛んだ。

じわりと痛むそれは、やはり苛立ちを生むだけで何の解決にもなりはしない。

痛む唇を癒すように舐め、リタは頭を支配するそれらを振り払おうとした。

追いやっても居座る図々しいヤツだとリタは悪態をつく。

考えたいのは違うこと。

それなのに、いつの間にか考えているのはユーリのことだった。

戦闘時に見せる頼れる背中。

いつもどこか意地悪に笑うその顔。

落ち込んだ時にくれるあたたかい手。

さりげなく気遣ってくれ、可愛げないと自覚している自分と適度な距離で接してくれた。

並べるのは、おそらく「好き」に分類される感情。

馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる。

その感情は勘違いなはずだから。

心地よい仲間としての距離。

それを勘違いするなんて、本当に馬鹿馬鹿しいとリタは苛立ちを込めたため息を吐き出した。

好きなはずないのだが、嫌いかと問われたなら嫌いではない。

憂鬱のため息を吐き出した。


「リタ」


名前を呼んだ後でノックする。

その声はユーリのもので、リタは返事を躊躇った。

会いたくないわけではない。

多分、すごく会いたい。

けれど、素直になれない心が、彼と会うことを少なからず拒絶した。

返事をしなければ諦めるだろうと思ったのに、ドアノブを動かす音が聞こえる。

どうしようかと焦ったリタは、机に置いてあった本の適当なページを開いた。


「リタ、いるなら返事しろよ」

「え? あ、ああ……あんた、いたんだ」

「冷たいな。今さっきノックしたんだけど?」

「そう」


指先が震える。

振動が伝わり、紙がカサカサと音を鳴らす。


「オレらしばらく出かけるわ」

「え?」

「依頼でちょっと、な」


どうやら、凛々の明星に入った依頼らしい。

当然、カロルやジュディスも一緒だろう。

ジュディスが一緒。


「ユーリ」

「ん、どうした?」

「あの、ね」


服の裾を引っ張る。

それは子どものように幼い仕草。


「あたしも一緒……」

「明後日には帰るから、留守番よろしくな」

「え、あ、うん……」


言わせてもらえなかった。

ここまで来たなら開き直れる。


「さっさと行きなさいよ。調子に乗って、失敗しないようにね」

「ああ、行ってきます」


ゴーグルにもらったキスに、心乱されまくるのは数秒後のお話。






さ み し が る



2011/08/13




戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -