40.疑う


ギルバートがアリスに疑問を持ったのは、昼食の準備をしている時だった。

いつもなら、「肉にしろ」や「まだ用意はできないのか」などと口うるさく騒ぐアリスが、静かにしていたから。

よほど腹が減っているのかと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。

睨むような鋭い瞳でギルバートの作業を見ていたかと思うと、突然立ち上がった。


「特別にこの私が手伝ってやろう」

「何だ、いきなり」


腕捲りをしながらアリスは調理場へ足を踏み入れる。

心持ち静かに。

アリスの行動に呆気に取られていると、彼女は言葉通り手伝いを始めた。


「おい、バカウサギ」

「何だ」


真っ白な皿を食器棚から取り出しながら、アリスはギルバートへと顔を向ける。

その顔には、少々の不満とそれを覆い隠すほどの期待が浮かんでいた。

その表情はギルバートの動きと言葉を止めるのに十分な力を持っていた。


「呼んでおいて何も言わないのは何故だ。話がないなら……」

「お前、何か悪いものでも食べたか?」

「は?」

「あ、いや、お前が自分から手伝うと言い出すのは、珍しいし」


アリスはテーブルの上に皿を置く。

それらはわずかに不機嫌を奏でた。


「……悪い」

「私が自ら手伝いを申し出た理由か」


アリスはフンッと鼻を鳴らし、腕を組み、胸を張る。

瞳が怪しげな光を放った。


「特別に教えてやろう」


唇が何かを企むように動く。

とんでもない理由かもしれない。

たとえば……。


「貴様が寂しいかと思ってな」

「……は?」


たっぷり間を挟んでギルバートは聞き返した。


「だから、1人で料理をするのは寂しいだろ。だから私が……」

「お前……」

「何だ、その顔は! 勘違いするな。私は別に何ともない。ただ貴様が」


慌ただしく捲し立てる。

そのうち言葉では無理だと思ったのか行動に移す。


「ほら」


だいぶ慣れてきた。

アリスが頭を撫でろと態度で言ってくることに。

しばらく考えて、ギルバートは右手でアリスの頭に触れた。






う た が う



2011/06/07




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