91.溢れ出す

※未プレイなので、キャラ崩壊注意





カツカツと音を立てて歩く。

こんな風に少し余裕がありながら歩くのは久しぶりかもしれない。

このところ、『何が』と原因を指定することはできないが忙しかった。

吐き出した息には疲労が乗っていたような気がする。

こんなところで気を抜いてはいけないとカルセドニーは姿勢を正した。

ちょうどそこへ声が飛んでくる。


「カル!」


軽やかな花のような声。

毒のように体に留まり、内側から侵食していくような声。

緩んだ頬を気づかれないように元に戻して彼女と向き合う。


「何でしょう、パライバ様」

「良かった。貴方に会いたかったの」


カルセドニーの前で歩みを止めた彼女は、フフッと可愛らしい笑い声をもらした。

先ほどから何度も『可愛い』という感情を抱くが、年上の女性に可愛いを連呼するのは失礼にならないだろうか。

目の前で首を傾げたパライバの疑問には答えず、カルセドニーは尋ねた。


「会いたかった、とおっしゃいましたが、何かありましたか?」

「ええ。貴方とお茶がしたくて探していたの」


名案でしょう、とでも言う様子のパライバにカルセドニーは何と返すべきか迷ってしまった。

今現在、急を要する用件はない。

けれど、その時間を彼女とのお茶に使うことをわずかに躊躇った。

嫌だったからではない。

自分なんかで良いのだろうかという不安が少なからずあったから。


「カル?」

「……いえ」

「それは断りの文句かしら」

「それは……」


パライバは笑った。

カルセドニーの返答を不快にも残念にも思っていない表情で。

ただそれだけのことなのに、彼女を思う愛しさが込み上げる。


「お付き合いします」

「本当? 良かったわ。美味しいお茶とお菓子を頂いたの。一人で食べるのはもったいなくて……。幸せは二人で分け合いたいわ」


やはり彼女は可愛らしい。

それは間違うことのない現実。

パライバをエスコートするために、カルセドニーは隣に立った。






あ ふ れ だ す



2012/06/30




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