04『さあ、召し上がれ(…食べ物ですか、ソレ)』



※フライング



何故だかわからない。

ジュードは何気なく手に取った流行りの冒険小説から顔を上げ、心の中で呟いた。

真新しいラウンジには、何人もの客がそれぞれの時間を楽しんでいる。

ジュードは一人この場所で彼女を待っていた。

アルヴィンと出かけるという話があったのだが、ミラに頼まれてここにとどまっている。

彼女はケーキ作りをしたいと言っていた。

初めて作ったものをジュードに食べてもらいたいと。

ミラの気持ちはすごく嬉しいし、その時の彼女の可愛らしい顔を見れば抱きしめたい衝動にも駆られた。

だが。

ジュードは知り合いのいないこの場で、深いため息をついた。


「ジュード、待たせてしまったな」


心地よい彼女の声が聞こえ、何種類かの緊張感を携えて顔を向ける。

満足げな表情を浮かべるミラの手には、白い箱。

推測する間でもなく、中身は彼女の手作りケーキだろう。

その箱が何やらパンドラの箱に見える。

飛び出すのは、希望か絶望か。


「……ジュード?」

「あ、ああ、ごめん」

「少し失敗したが、上手く出来た方だ」

「そう、なんだ……」


テーブルに置かれた白い箱。

その蓋が彼女の手によって上げられる。

現れたケーキにジュードは完全に言葉を手放した。


「……ジュード?」

「うん。はい。何、デスカ?」

「何故片言なんだ?」

「いや、その……」


失礼だと思いながらも、良いコメントが浮かばない。

ストレートな言葉は、確実に彼女を傷つけてしまう。

このケーキを、ケーキであろうものを上手く表現できずにジュードは一人こっそり落ち込んだ。


「……食べて、くれないのだな」

「食べるよ。せっかくミラが作ってくれたものだから」

「無理をするな。お前にそんな顔をさせてしまう自分自身が許せない」


結局、傷つけてしまった。

ジュードは箱の中に入っていたフォークで、固めのスポンジケーキを突き刺す。

そして、固すぎるスポンジと柔らかすぎる生クリームを口の中へ放り込んだ。





2011/03/26


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