「何かすごく変な気持ちだけど、やっぱ毒だったのかな……」
見方を変えれば、確かに毒かもしれません。
何故なら、ノーマの体が小さくなったからです。
二十五センチくらいの背丈になってしまいました。
小さくなった体を見ても、縮んだ以外におかしな所はありません。
これ以上縮む気配もありません。
このサイズなら、あの小さなドアから出られそうです。
ノーマは歩き出して……気づきました。
鍵をテーブルに忘れたのです。
「……届くわけないよね」
下から見上げれば、ガラステーブル越しにあの金の鍵が見えます。
憎たらしいほどにキラキラと輝いていました。
「あれ? あたし、さっき鍵かけたっけ?」
小さなドアを開けっ放しにしていたような気がして、ドアまで歩いてみました。
結構な距離でした。
閉めた記憶のないドアは完全に閉じられていました。
何とかしてあの鍵を落とそうと考えます。
「たとえば、このテーブルをぶっ飛ばすとか」
ストレスが溜まっているようで、思考の行き着く先が破壊行動になっています。
そろそろ本気で詠唱しようかとしたその時、テーブルの下にガラスケースがあることに気づきました。
中には小さなケーキが1つ。
ケーキには、小さな干し葡萄で『わたしをお食べ。カロリーは低めだよ』と書かれていました。
「……器用だな」
ノーマはどこかにいるであろう職人に一言告げました。
少し考えて、ノーマは頷きます。
「食べてみよっと。大きくなったら鍵に手が届くし、小さくなったらドアの下をくぐってあの庭に行けるでしょ。どっちになっても、一発解決。よし、いただきます」
手を合わせて、ノーマは一口食べました。
そのまま様子を見ますが、何の変化もありません。
大きくも小さくもなりません。
「まあ、普通に考えて、ケーキ食べたくらいで体のサイズが変わったりしないよねー」
何かが起こると思い込んでいたノーマは、少し恥ずかしくなりました。
そのまま残りのケーキを全部食べてしまいました。
お腹がすいていたのです。
このケーキは、本当においしいケーキでした。
2010/08/05
移動 2011/03/25