01.うさみみ少年を追いかけて
天気の良いその日、ノーマはお兄さん(スヴェン)と川辺の木陰に座っていました。
ノーマは古刻語の勉強がしたかったのですが、隣にいるお兄さんがうるさくて集中できません。
「だーっ!! ししょー、うるさいよ。静かにしててよ!!」
我慢の限界を越えてしまったノーマは、叫びました。
それを気にすることなく、お兄さんはにっこり笑いました。
「ははは。ノーマは相変わらず、バカで可愛いな〜」
「何の話だ!!」
相手にするだけ疲れるのは分かっています。
ノーマは無視することにしました。
その時、二人のすぐ側をうさみみをつけた少年が、走って行きました。
それは別に不思議な事ではないので、特に気にしませんでした。
うさみみをつけた少年が
「大変です。このままでは、遅れてしまうかもしれません!!」
と独り言を言おうが。
(最近、うさみみが流行ってんだねー)
程度です。
ところが、うさみみをつけた少年(長くて面倒なため、今後はうさみみ少年と略します)が、ポケットからハト時計を出した途端、ノーマは瞳の色を変えました。
「あれは、あれは……!!」
本でしか見たことのない伝説級のハト時計。
それが今ノーマの目の前に。
なら、やるべきことは決まっています。
ノーマはうさみみ少年を追いかけることにしました。
野原まで走ると、ようやくその後ろ姿をとらえることができました。
うさみみ少年は、ノーマが想像していたより、ずっと足が速かったのです。
「ぜぇ、ぜぇ……」
呼吸が苦しくても、うさみみ少年から目を離すことはしません。
「絶対、あのハト時計……手に、入れてやるっ……」
ノーマが見ていたのは、うさみみ少年ではなく、ハト時計のようです。
うさみみ少年は、生け垣の下にある巨大すぎるうさぎの穴に飛び込みました。
ノーマも躊躇うことなく飛び込みました。
後先考えず行動に移す所が、彼女の欠点でもあります。
トンネルのようだったその穴は、急に井戸のような形に姿を変えました。
「うえぇっ!?」
ノーマがいくら驚こうとも、彼女の意思を無視して、どんどん落ちて行きます。
恐怖はやがて諦めへと変わりました。
下を向いても、真っ暗で何も見えません。
けれど、壁には戸棚や本棚がはめこまれていました。
下へ落ち続けるノーマは、棚にある瓶を一つ取ります。
それは、『オレンジマーマレード』の瓶でした。
蓋を開ければ、『バーカ』と書かれた紙が一枚。
「むきーっ!!」
腹が立ったノーマは、その瓶を壁に投げつけました。
割れるはずの瓶は、ノーマの期待を裏切って、壁に吸い付きました。
どうも自分がおもちゃにされている気がします。