呪いのビデオ




「みんな、今日は集まってくれて、ありがとう!」


ニコニコと嬉しそうに笑うアスベルの前に立つ三人。

ソフィ、ヒューバート、シェリアだ。


「集まりたくなんてなかった……。脅されたから来ただけです」


青白い顔で震えているのは、アスベルの弟・ヒューバート。

一体どんな脅され方をしたのだろう。


「ところで、アスベル。そのコ、誰?」

「ソフィだ。可愛いだろ?」

「まさか……彼女?」

「誤解しないで。ただの同居人だから」


シェリアの視線を受け、ソフィが短く答えた。

答えたのだが。


「一緒に住んでるの!?」

「? そんなに驚くこと?」

「詳しく聞かせてくれませんか?」


ヒューバートが尋ねると、アスベルは頬を染めた。

何があったんだとシェリアとヒューバートは彼に詰め寄る。

が、どこの乙女だと突っ込みたくなる仕草(赤い顔を両手で隠す)をして、逃げた。

二人の視線がソフィへと移った。

ソフィは三個目のプリンを無表情で食べている。

有名パティシエ作の完全予約制超限定プリン。


「今日は、微妙……」


四つ目に手を伸ばしながら言う台詞ではない。


「えと……ソフィだったわよね?」

「うん。ソフィ・ラント、自称13歳の不思議少女」

「……」


聞き間違えたのかと、シェリアとヒューバートは顔を見合わせる。

確かにソフィはラントを……アスベルのファミリーネームを名乗った。

やはり、そういう関係なのだろうか。


「えと……」

「シェリア」


ストレートに尋ねようかとした彼女をヒューバートは止めた。


「みんな、今日は集まってくれて、ありがとう」



((二回目!?))



少し前に、確かその台詞を聞いた。

あまりにも眩しい笑顔だったので、触れなかったが。


「アスベル、プリンなくなった」

「ソフィはプリン大好きだからな」

「プリン……嫌い」


ソフィの頭を優しく撫でながら、そう言うアスベルにソフィは反抗した。

まるで、兄妹。

兄妹だから、ラント姓を名乗ったのだろうか。


「いい加減集めた理由を教えてください」

「呪いのビデオを手に入れたんだ!!」


自慢げに言ったアスベルに対して、三人は冷めている。

というか、何を嬉しそうに言っているのだろうと思っている。

いや、ソフィは別のことを考えているかもしれないが。


「みんなで見て、仲良く呪われよう!!」


この瞬間アスベル以外の人物は、彼を呪いたくなった。

アスベルは気にする事なく、ビデオデッキにセットした。

再生ボタンを押す。

ガゴガゴガゴ……と、壊れそうな音がして、テレビが煙を吹いた。


「……俺の、俺の愛するジョセフィーヌが!!」

「「……ジョセフィーヌ?」」


シェリアとヒューバートは、声を揃えた。

テレビを抱きしめるアスベル。

そんな彼の頭をポンポンと叩くソフィ。


「アスベル、大丈夫。ジョセフィーヌは、強い子だから」

「ソフィ……!」


これは何だ。

置いてけぼりにも慣れた二人は、やれやれとため息をついた。


「テレビが壊れたら、呪いのビデオは見れませんね。ぼくは帰り……」

「ジョセフィーヌ、お前はもう休んでくれ。ここは、みーたんに頼む」


アスベルは、新たに別のテレビをセットした。

彼は、テレビすべてに名前をつけているのだろうか。

準備をスムーズに終え、再び再生ボタンを押す。

ボキッ、メキョ、グシャッと痛々しい音を発して、テレビは火を吹いた。


「みーたん!! しっかりするんだ、みーたん!!」


火を吹くテレビを激しく揺するアスベル。

今まで見たことのない姿に、シェリアとヒューバートは距離を取った。

ソフィは慣れているのか、表情一つ変えずに高級アイスを食べている。

濃厚バニラにほんのり苦いキャラメルソースがかかった、人気のアイスだ。

他にストロベリーやチョコレート、抹茶も並んでいる。

空の容器が。


「アスベル、ここはジョナサンに頼むべき」

「だが、ジョナサンは……!」

「このままでいいの?」

「!! そうだな。俺は、呪いのビデオを見る為にみんなを呼んだんだ」


アスベルは、段ボールに入った真新しいテレビを設置した。


「そこまでする必要があるのかしら……」

「……さあ。兄さんの考えていることは知りたくもありませんから」


ヒューバートはため息を返すことしか出来ない。

随分前に、アスベルが用意してくれた梅茶を飲んだ。

少しだけすっきりした。


「よし、今度こそ……!」


三度目の正直。

アスベルは再生ボタンを押した。

素直に動き出し、画面に映像を映した。

モヤモヤとした意味の分からない物が数分流れる。


「……」


三人の視線を受け、アスベルは苦笑を浮かべた。


「これからだ。おいしいヤツは、ここからが見せ場……ッ!?」


ドスンッと今度は、デッキが破壊された。

アスベルの瞳に涙が見える。

彼が泣こうが泣かまいが、関係ない。

これで話が終わるのなら、嬉しいとしか言えない。

呪いのビデオ鑑賞のため座っていたヒューバートが立ち上がった。

シェリアもそれに続く。


「もう満足でしょう。帰りますよ」

「その心配は要らない。大丈夫だ。お前たちは、これを見るまで帰れないことになってる」

「何よ、それ!?」

「シェリア、今日は一緒にお風呂入ろう?」


シェリアの服を引っ張り、彼女を見上げる。

可愛らしい仕草は、思わず甘やかしたくなった。

泊まる前提の話をされているが。

そして、それに対抗する18歳。


「じゃあ、ヒュー君俺たちも一緒に」

「入らねぇよ。後、ヒュー君言うな!」

「全く、アスベルが絡むと口調が変わるんだから……」


呪いのビデオ云々の前に、アスベルが呪いの根源に思えたヒューバートだった。






呪いのビデオ






E N D



2009/08/14
移動 2011/02/07




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