ささやかな復讐




現在、次の街を目指して歩いている途中のエミルとマルタ。

先程までは、楽しく会話をしていたのだが、今は完全に静寂に支配されている。

妙な気まずさを感じているのは、自分だけだろうか。

エミルは隣を歩くマルタを見た。

右手を顎に当て、難しそうな顔をして、何やら呟いている。

考え事をしているようだが、何を考えているのか分からない。

彼女の思考が一段落するまで、待つしかないだろう。

どれくらいかかるか分からないなと思ったその瞬間、マルタが大きな声を出した。


「よし。ツインテールに決定!!」


突然の大声にも驚いたが、その内容にも驚く。

何がツインテールに決まったのだろう。


「マ、マルタ……?」


恐る恐る声をかけてみると、彼女は笑顔で答えた。


「何?」

「えと、一体、何を考えていたの?」

「少し気になりますね」


今まで姿を隠していたテネブラエが、頷きながらその場に現れた。


「何って……リヒターへの嫌がらせだけど?」


当然だと言わんばかりにマルタは答えた。


「リヒターさんへの嫌がらせ……。ツインテールって?」

「リヒターのあの髪をツインテールにして、可愛いリボンをつける!!」


握り拳を作り、いいアイディアでしょ、とエミルに笑顔を向ける。

それに何と返していいのか分からない。

そうだね。
と頷くべきか。

何しようとしてるんだよ。
と止めるべきか。

暫く悩む時間すら、与えられなかった。


「マルタさま、それだけではインパクトに欠けるのでは?」

「そう? 私は結構いいなって思ったんだけど」

「頬に油性ペンで渦巻を書きましょう!」

「それ、いいかも!」


ぽんっと手を叩き、頷いている。

全然よくないよ……と言うエミルの声など、当たり前だが届いていない。


「ついでに、髪を縦ロールに」

「うんうん。で、濃いめの化粧!」

「当然です。後は、口調が“〜ですわ”とか変わると面白いですね」

「ホント。イチゴのクレープもあげなきゃ!」

「クマのぬいぐるみもお忘れなく」


これは、エミルが止めるしかない。

マルタを守ると誓ったが、これは話が別だ。



(僕が、リヒターさんを守らなきゃ!!)



そんなよく分からない格好をしたリヒターなど見たくない。

うっかり想像しただけで、イメージがボロボロと壊れていく。

何が何でも阻止しなければ。

決意したエミルは、ふと疑問に思った。


「ねえ、二人とも。それ、誰がやるの?」


リヒターがそんなことを素直にやってくれるはずがない。

ならば、誰かが無理やりするしかない。

誰がそんな命知らずなことをするのだろう。

マルタとテネブラエは顔を見合わせ、同時に口を開いた。


「「エミル」」


何となく嫌な予感はしていたが、エミルは激しく頭を振った。

何故自分がしなければならないのかと。


「大丈夫。エミルなら、出来るわ」

「そうです。そのくらい出来ないで、マルタさまを守れると思っているのですか」


彼らはエミルを何だと思っているのだろう。

そして、リヒターのことも。


「絶対大丈夫だから。最悪、ラタトスクモードでいいから」

「それは、最後の手段ですけどね」

「で、でも……」

「大丈夫大丈夫。私が大丈夫だって言ってるのよ」

「そろそろ覚悟を決めてくださいね」

「……てめーら、いい加減にしやがれ!!」

「キャー、エミル、カッコいい〜!!」


マルタがエミルの腕に抱きついた。

ギュッと。

掴まえたと言うように。


「は、離せ!」

「離すわけないよ。さ、リヒターの所へ行ってきて」

「嫌だ」

「何で? 可愛い復讐じゃない」

「可愛い? 復讐が可愛いわけあるか」

「ね。あなたなら出来るから」

「だから、何で俺がそんなこと――……」

「エ・ミ・ル」

「……ワカリマシタ」


赤目が泳ぎ、諦めて頷いた。

どんなに足掻いた所で、これは逃れられない運命のようだ。


「エミルのそういうトコ好き〜」


マルタは抱きしめる腕に力を入れた。

これからどうなるのか分からない。

エミルのレベルが上がるのか、再起不能になるのか。

それは、運次第だろうか。

楽しそうなマルタと力のない赤い瞳のエミル。

そんな二人を眺めた後で、テネブラエは静かに姿を消した。





ささやかな復讐


どうせなら、
エミルも可愛い格好する?

え゛……。

大丈夫。
私に任せれば、
とびきりの美少女になれるわよ。

…………。






E N D



2008/09/15
移動 2011/02/01




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