人はそれを××と呼ぶ




「なあ」


本日の夕食。

王子(ティルキス)特製マーボーカレー。

それをみんなで食べている時、カイウスが食事を中断させるように声をかけた。

ちなみに、マーボーカレー大好きっ子のカイウスは、現在4皿目である。


「何よ、突然」

「美味しいモノ×美味しいモノ=美味しいモノだよな!」


ルビアの怪訝な瞳に対して、カイウスは瞳を輝かせて言った。


「何なの? その公式は」

「アーリア、真面目に聞くだけ無駄だと思うぜ」


ティルキスは後片付けを始めようと、『うさぎさんエプロン』を装備した。

胸元に大きなうさぎの顔。

裾の方には、人参を抱いた二足歩行のうさぎがたくさん並んでいる。

そんな『うさぎさんエプロン』。

ちなみに、色はピンクだ。


「ティルキス様」

「ん?」

「この間、プレゼントした『ネコちゃんエプロン』は……」

「あれは、子供っぽすぎるだろ?」


肩を竦め、フォレストに笑みを向けた。

うさぎは子供っぽくないのだろうか……と誰かが小声で突っ込んだ。


「みんな、オレの話を聞けよ! hearじゃなくて、listenだよ!」

「……」


暫くの沈黙。

遠くでゲコゲコの鳴き声が聞こえた。


「お兄様、デザートに何か作りませんか?」

「そうだな」

「わたしも手伝うわ」

「では、私も」


逃げるように、その場を離れるメンバー。


「おいっ」

「カイウス、貴方何が言いたいの?」

「つまり、みんなの好物を混ぜたら、すごくウマい料理が出来るってことだよ!」








人はそれを××と呼ぶ








カイウスの発言から、もうすぐ1分。

なかなか返事をしてくれない仲間達に寂しくなり、5皿目になるマーボーカレーを食べ始めた。


「カイウス」

「ん?」

「それって良いかもっ!!」


ルビアは、ぽんっと手を叩いた。

今すぐやりましょう。

と顔が語っている。


「確かに、マーボーもカレーも別々で美味しいわね。それを合わせたマーボーカレーは……」


何かを確認するように呟いていたアーリアの瞳が、鍋に向いた。

何人分作られていたのかは、分からない。

だが、軽く人数の6倍以上は作られた鍋。

それが、もう空っぽだ。

美味しさは証明されている。


「新しいことに挑戦するのは、いいかもな」

「そうですね」


止める人物は存在しなかった。

それが、後の悲劇を招くのだが……。

無謀な挑戦は、明日の昼食に決まった。

それまでに、それぞれの好物を用意しなければならなかったから。

そして、運命の日を迎える……。








* * *



「みんな、準備はいいか?」


真剣な面持で、全員に確認する。


「ばっちりよ」

「ええ」

「ああ」

「始めますか」


輪になった五人の中心には、使い込まれた銀色の巨大鍋。

その下には、火の準備も出来ている。

異様な緊張感が漂う中、カイウスが自分の鍋を取り出した。


「入れるぞ」


四人が頷く。

それを見て、マーボーカレーを入れた。

もちろん、ご飯も。

鍋底が焦げつかないように、杓子でまぜる。


「次は、あたしが入れるわね」


カイウスの時のように、みんなが頷く。

ルビアは、マーボーカレーが入った鍋へ、人数分の焼き魚を入れた。

ちょうどいい焼き加減の焼き魚だった。

誰も何も言わない。

暫くそのまま様子を見る。


「次は、俺かな」


ティルキスは人数分のステーキを入れた。

切らないで、塊のままで。

マーボーカレーの中を泳ぐ、焼き魚とステーキ時々ライス……。

何となく「嫌な予感」を感じ取ったメンバーもいただろう。

だが、ここまで来ると、後には引けない。



後編




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