★闇★鍋★
楽しみだったり、
恐怖だったり、
そんな食事の時間。
今日の彼らは、どんな時間を過ごすのだろう。
★闇★鍋★
「今日の食事当番はアニスだったな」
日も暮れかかった頃、ガイがぽつりと言った。
「アニスの料理はおいしいですから、楽しみですわ」
頬に手を当て、ナタリアがにっこり笑う。
「本当にうまいよなー」
心からの尊敬を込めて、ルークも言った。
「あんな風に料理のうまい嫁が欲しいよな……」
「「!!!!」」
独り言であろうガイの言葉。
深い意味など欠片もないであろうガイの言葉。
だが、女性恐怖症の彼が口にしたことにルークとナタリアは驚いた。
それはもう芸人をも超えるリアクションで。
「ル、ルーク。い、今の聞きまして?」
「き、聞いた聞いた」
「「ガイの“嫁が欲しい発言”!!」」
「え?」
ガイが気づくと、二人の(最高の)笑顔に迎えられた。
「ガイ。アニスなら、きっと良い返事を聞かせてくださいますわ」
「へ……?」
「今すぐ行って来いよ。俺、応援してるぜ」
「……はぁ?」
幼馴染み二人の言葉が理解できず、首を傾げる。
「盛り上がっているところ悪いのですが……」
普段より暗い声で控えめにジェイドが声をかけた。
「どうしたんだ?」
「今日の食事なんですが……」
「アニスの当番でしょう?」
「……らしいです」
「え? 旦那、はっきり言ってくれよ」
「闇鍋なのよ」
言葉を濁すジェイドの代わりに、彼の後ろにいたティアが答えた。
「闇……?」
「鍋……?」
きょとんとした顔を見せる王族二人。
「マジかよ」
「ええ。しかも、一人三品」
「三品……」
恐怖を映した瞳で、ガイはナタリア(とルーク)を見た。
「なぁ、ティア。闇鍋って何なんだ?」
「某死神コンビ」
「はぁ?」
ルークの頭の上にクエスチョンマークが行儀よく並んで浮かぶ。
「違うだろ」
「違うのか? ジェイド、教えてくれよ」
「仕方ありませんね」
珍しくガイに振らず、自分で説明を始めた。
「……というわけです」
「……。いや、説明してくれないと、分かんねーんだけど」
「マンガ(小説でも可)でよくあるでしょう!」
「ここで手抜きするなよ……」
ガイはため息をついた。
「では、ガイ。適度なボケを盛り込んで、説明してください」
「何でそんな注文――……」
ジェイドが冷たい瞳でにっこりと笑うから、ガイはそれ以上何も言えなかった。
素直に彼の言葉に従うことにした。
「え、えーっと……闇鍋っていうのはな……」
「鍋料理の一種でぇ、みんなで持ち寄った食材を鍋に入れて、真っ暗な中で食すってモノだよ☆ 一度掴んだモノは絶対に食べなきゃならないの。分かった? ルーク様?」
「な……何となく。つーか、久しぶりにアニスに『様』って呼ばれたよ」
アニスに出番を奪われてしまったガイ。
しかし、ジェイドの難しい注文に応えなくて良かったため、安心した。
「安心するのは早いですよ〜」
「!!」
「だしの用意は出来たから、食材準備に行くよ〜」
アニスは何故かノリノリである。
「食材は一人三種類。当たり前だけど『食べ物』であること。箸で掴めること。の二つは絶対守ってね」
「分かりましたわ」
「分かった」
初めての闇鍋にワクワクする王族二人。
一方、この後の惨事を予想できる人達はあまり乗り気ではない。
そして、半時間後……。
→後編