オヤジの悩み
「ちょっと、クー。どうしたのさ、アレ」
「……さあ?」
「ジェイ、何か知ってるか?」
「残念ながら」
「どうしましょうかねぇ」
「取り敢えず、声かけてみたらどうじゃ?」
オ ヤ ジ の 悩 み
特に用事のないある日のこと。
いつものように自然にウィルの家に集まったメンバー達を迎えたのは、彼のため息だった。
ため息だけなら、皆それ程気にしなかっただろう。
ウィルが纏う黒く重い空気に、言葉をかけられなくなったのだ。
「お兄ちゃん、遅くなっ……どうしたの?」
部屋の入り口付近に立ち止まっているセネル達。
部屋の奥から流れてくる黒い空気。
「シャーリィ……。実は……」
事情(と言っても、ウィルが落ち込んでいるらしいということしか知らない)を説明した。
「いつものことでしょ」
そう言うと、シャーリィは勝手に湯を沸かし、お茶を入れてソファで寛いだ。
「えー! ウィルさんが!?」
「……」
どうつっこめばいいのか分からないので、取り敢えず黙ってみた。
「そういうことは、早く言ってよ!」
「言ってるから!」
「ウィルっち、どったの〜?」
部屋の隅に座り込んでいるウィルに立ち向かう(?)勇敢なノーマ。
ウィルがどう返すのか、固唾を呑んで見守るメンバー。
「フッ。まないた」
「!!」
空気が瞬間冷凍されたような気がした。
「ふふふ。いい度胸してんじゃん、オヤジ」
「ノ、ノーマ。落ち着こう。な?」
クロエの言葉など聞こえていないようで。
「荒ぶる氷雪の乙女よ……」
普段より数倍低い声で唱え始めたのは、『ブリザード』。
「シャボン娘、それしたら、ホンマに空気冷凍してしま――……」
「シューティングスター!!」
「ぐはっ!!」
そんなノーマに全力で攻撃したのは、シャーリィだった。
「シャーリィ!?」
「なぁに。お兄ちゃん」
怖い。
よく分からないが、怖い。
その恐怖にセネルはただ、首を左右に振った。
クロエは、瀕死のノーマにパンを与える。
「はっ。またししょーに騙された!」
「……」
クロエが泣いているように見えた。
「それにしても、何故ウィルさんはあそこまで落ち込んでいるのでしょう」
「ジェー坊が聞いたら、教えてくれる――……」
「黙れ、バカ山賊」
「姉さん、ジェー坊がワイを苛めるんじゃ〜」
「あらあら、可哀想ねぇ」
グリューネは、モーゼスの頭を撫でた。
……煙が出るくらい何度も素早く。
「熱っ!!」
「はいはい」
彼らは、もう一度ウィルの観察(違)をすることにした。
「……なあ、何で俺らこんなに悩んでるんだ?」
「それは……分からないな。レイナードのことなど、どうでもいいのに」
「確かにどうでもいいよね」
「本当どうでもいいですよね」
「どうでもええの」
「不愉快ですが、皆さん(特にモーゼスさん)と同感です」
「お姉さんもよぉ」
今何か聞き流したような……とモーゼスは、先程のジェイの言葉を思い出す。
→後編