緊急事態




その日、セネルは珍しく一人で起きた。

しかも、結構早い時間に。

暫くベッドの上で、ぼ〜っとする。

覚醒へと近づくに連れ、その違和感に気づいた。


「な、何だよ……コレ」


自分の体に起きた異常に言葉をなくした。






緊 急 事 態








「相変わらず朝に弱いんだよね〜セネセネは」

「それ、ノーマさんには言われたくないかもしれませんね……」

「何よ、ジェージェー」


いつものメンバーは、時間になっても現れないセネルを起こすために、彼の家に向かっていた。


「毎朝、一人で起きられないというのは、問題だな」

「お兄ちゃん夜更かしでもしてるのかな……」


くかか、とモーゼスは笑った。


「夜遊びでもしとるんじゃろ」

「シャンドル、軽はずみな発言はよせ」

「あらぁ? セネルちゃんの家の玄関に何か貼っているわよぉ〜」


グリューネに言われ見てみると、確かに昨日まではなかった張り紙が目についた。


「何て書いてあるんだ?」


彼らはそれに目を通す。



『悪い。急用ができた。今日は会えない』



「……どういうことなんだ?」


誰か説明しろ、と言わんばかりにクロエが仲間の顔を見回した。


「う〜ん……。リッちゃん、何か聞いてない?」

「何も……」

「急用っていうのは何でしょう?」


彼らは暫く考える。


「おい」

「どしたの、ウィルっち〜?」

「今、家の中からセネルの声が聞こえなかったか?」


耳をすましてみると、他にも色々と音が聞こえる。

そう、暴れているかのような……。


「留守ではないようですね」

「ここは突撃あるのみじゃー!!」


止める間もなくモーゼスは、家の中に飛び込んだ。

他のメンバーも続くように家の中へ足を踏み入れた。

意外と部屋の中は静かだった。


「クーリッジ……?」


クロエの声にびくりっと動いた人影。

それは間違いなくセネルだった。


「セネセネ〜。びっくりしたよ〜。一体何があっ……」


ノーマの動きがピタリと止まった。

ノーマだけではない。

セネルのその姿を見た者全ての動きが止まった。








……。








どれほど時間がたったのだろう。

あまりに長い沈黙だった。


「まぁ。キレイなお花ねぇ」


グリューネののんびりとした口調で彼らは我に返った。


「セネル、その頭は……」


皆を代表するようにウィルが低めの声で尋ねた。

そう、セネルの頭に花が咲いていたのだ。

それはもう見事に。


「何で入ってくるんだよ……」


掠れた声。

確かにこんな姿は誰にも見られたくない。


「もう、お嫁に行けない……」


両手で顔を覆って、しくしくと泣く。


「お兄ちゃん、わたしがお嫁にもらってあげるわ」

「兄妹だから無理」

「(がーんっ!!)」

「セネルちゃん、お姉さんがお嫁にもらってあげるわよぉ」


ショックを受けているシャーリィの隣で、グリューネが頬に手を当て、にっこり笑った。


「グリューネさん……」

「(がーんっ!!)」


シャーリィは自分の時とは違う反応に、更にショックを受けている。


「セネセネ〜、あたしもいるよ〜」

「ノー……マ?」


こんな面白いことを逃してたまるか、といった感じで自分を指さすノーマ。

その一方で、クロエに参加しろと合図を送る。


「……。ク、クーリッジ。私で良ければ……」

「クロエ……」


暫し見つめ合う二人にシャーリィ更に更にショック。


「モーゼスさんも参加してみたら、どうですか?」

「ヒョオオオオ! そやな、ワイも……」


言いかけて止まる。


「……ワイ、頭に花咲かせた男を嫁にもらう趣味はないんじゃが」

「そんな趣味あったら、かなり嫌ですよね」


笑顔でそう言うジェイ。


「嫌と言うか、犯罪ですね。安心してください。成仏させてあげますから」


笑顔で武器を構えるジェイが怖い。


「じゃから、そんな趣味はないって……!!」

「冗談ですよ」



後編




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