楽園への羽ばたき



ジュードとミラはイラート海停にいた。

ミラがニ・アケリア……更に詳しく言えば、マクスウェルを祀るミラの社に行きたいと言ったからだった。


「ミラ、大丈夫?」

「ああ、少し疲れただけだ」

「休憩してから行く?」

「いや、すぐに……」

「休憩しようか」


無茶をするとわかったところで、無理矢理休憩を入れる。

若干不満を顔に出したが、ジュードがミラを気遣ったとわかりすぐに頷いた。

海停のすぐ側にある比較的小さめな飲食店に足を入れる。

席に着きメニューを広げると、ミラの瞳が輝いた。

この様子だとお腹もすいていたのだろう。


「好きなの頼んでいいよ」

「本当か!?」

「今日は少し多く持ってるからね」


数日前まで目が回るほど忙しかった。

その結果、懐に少し余裕ができたのだ。

無駄遣いをしようとは思わないが、ミラが望んでいることは何だって叶えてあげたいと思っているジュードを見れば、無駄遣いとまではいかないがもう少し控えたら良いのにと思うだろう。


「決まった?」

「うむ。これとこれと、これだ」

「はいはい。わかったよ」

「ジュードは?」

「え、僕はいいよ」

「遠慮するな。君は成長期なんだろう? 今食べないと成長しないぞ」


そう言うと、ミラは勝手にジュードの分も注文した。

その顔は満足そうだったので、文句の一つも言えない。

ジュードにも多少「自分はミラに甘い」という自覚があった。

軽い食事を終えた二人は海停を出発する。


「なあ、ジュード」

普段よりはゆっくりと歩く。

それは意識してのこと。

いつもはただ、先を急ぐことが多かった。

たまには、ゆっくり歩んでいけばいい。

「何、ミラ」

「付き合わせてしまって、すまなかったな」

「そんなこと気にしなくていいのに」

「……しかし、君にもやりたいことがあっただろう?」


確かに、やりたいことはいくつかある。

けれどミラは気づいていない。

ミラと一緒にいることも、ジュードのやりたいことなのだから。


「だから、気にしなくていいって。僕は好きでミラについてきたんだから。それとも、ミラは嫌だった?」

「違う。私は……ただ、その、ジュードと一緒にいたくて……」


いつもははっきり物を言うミラが、語尾を濁らせた。

珍しいと驚くと共に嬉しくなる。

ミラも一緒にいたいと思っていてくれたことが。


「僕たち、同じ気持ちなんだね」

「同じ……。そうか、お揃いか」

「お揃いとはちょっと違う気がするんだけど……」


まあいいか、とジュードは笑った。

『ミラとお揃い』というのは嫌な気分ではなかったから。


「ジュード、急ぐぞ」

「どうしたの、急に」


右手首を掴まれ、彼女の速度に合わせる。

今の会話の流れで、何故急がなければならなくなったのだろう。


「今の気持ちを誰かに伝えたくてな」

「え?」

「イバルにでも自慢してやろうかと思ったのだ」

「ちょっ、ミラ、それは……」

「ほら、早く行くぞ」


ミラは更に速度を上げたが、今度は素直について行けなくなった。

何とも容易く彼の台詞が想像でき、少し憂鬱になったのだ。

それでも二人の足音は、幸せの音色を奏でていた。





楽園への羽ばたき





title thanks『空想アリア』



2011/10/30



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