貴方の胸で泣かせて下さい



不安。

言葉にすれば、たった3文字。

ただそれだけのものが、今のエリーゼを押し潰そうとしていた。

胸の奥がギュッと強く握られたかのように痛い。

呼吸を阻まれているようで、少し息苦しい。

誰かに助けを求めたくなりながら、エリーゼはその場に座り込んだ。

座ったところで、胸に存在する不安は軽くならない。

むしろ余計苦しくなったような気がする。


「エリーゼ?」

「ジュード……」


名前を呼んでくれただけで、何だか泣いてしまいそうになった。


「大丈夫!? どこか具合が悪いの? 言ってみて」


ジュードは彼女の側にしゃがみ、エリーゼの肩に手を置いた。

温かい手だと思う。

ジュードの手を見たエリーゼは微笑んで見せた。


「大丈夫です。どこも悪くないですから」

「本当に? じゃあ、何か悩んでる?」


ビクリとエリーゼは震えた。

それで気づかれてしまっただろう。

エリーゼは浅い呼吸を繰り返して口を開いた。


「ジュード、わたしは……」


言葉が喉に張りついてしまった。

ティポをギュッと抱きしめ、その口から言葉が漏れることを防いだ。

自分の言葉(こえ)で言いたかったから。

それなのに、何も言えない。


「エリーゼ、焦らなくていいから。僕はちゃんと話を聞くよ?」

「……はい」

「深呼吸する?」


エリーゼは頭を横に振った。

聞いてほしいことがある。

訊きたいことがある。

ジュードと話をしたかった。

彼と話をすれば、きっと楽になれる。

そんな自信があったから。


「ジュード、あの……。わたしが、ジュードの前で泣いても、迷惑……じゃないですか?」


ぱちくりと驚きを表したジュードが優しい表情に変わる。


「僕がエリーゼの力になれるなら、いいよ」


そう言えば、エリーゼはジュードの胸へと飛び込んだ。

少し驚いたジュードだったが、そっと彼女の背中に手をやる。

エリーゼの手を離れたティポがふわふわと二人の周りを飛ぶ。

口を縫いつけられたかのように何も話さなかった。


「ふぇ……」


小さな声が漏れる。

その泣き声はジュードの耳にもしっかり届いた。

小さな体では受け止められないことも多い。

早く大人になりたいと、ずっと願っていた。

ジュードの手がエリーゼの頭を撫でる。

強くて優しい手に涙は勢いを増した。





貴方の胸で泣かせて下さい





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2011/10/28



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