夕暮れ、きみの涙を拭えもしない最低な僕は



賑かな一日だった。

今日を振り返れば、そう思う。

疲れたため息を吐き出しながらも、心は晴れ渡っていて気持ちいい。

何とも清々しい気持ちだとアルヴィンは口元に笑みを作った。


「アルヴィン君こんなところにいたんだ」

「おー……レイアか」

「何よ、わたしじゃ文句ある?」


両手を腰に当て、怒ったフリをする。


「まさか」

「そっ? なら、いい」


アルヴィンの隣に立ったレイアは、腰に当てていた両手を空へ向かって伸ばす。

思いきり体を伸ばせば気持ち良かったのだろう。

ニコリと笑った顔をアルヴィンに見せた。


「で、俺に何か用事か?」

「用事ってほどのことじゃないんだけどね。一人だったら寂しいんじゃないかと思っただけ」

「……あのな」


レイアはクスクスと笑った。


「ホント、ちょっと心配だったの。アルヴィン君が落ち込んでないか」

「何の話だよ」

「あれ? 気づいてなかった?」


レイアは驚いたと口にするが、アルヴィンに思い当たることは何一つなかった。


「アルヴィン君」

「ん?」


向けられた視線を素直に受ける。

正面から彼女の目を受ける。

つい先ほどまで笑っていたレイアの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「……レイア?」

「あれ? 何でだろ」


ポロポロとこぼれ落ちる雫は、どうやらレイアの意思を無視しているらしい。

戸惑いを隠せない様子だったから。

やけに綺麗な雫をこぼすレイアを見ながら、自分は一歩も動くことができていないことに気づかされた。


「レイ、ア……?」

「あ、ごめんね。別に泣くつもりなんてなかったんだけど」


彼女の頬を濡らす雫。

レイアはそれを誤魔化すように乱暴に拭った。

その程度では治まる気配はない。


「あはは。どうしたんだろ。こんなのアルヴィン君を困らせるだけなのにね」


無理矢理笑っている姿は痛々しい。

それなのにアルヴィンはただ、そこに立っていることしかできなかった。

レイアに触れることができなかった。

恐れていたのかもしれない。

純粋な彼女を汚してしまうことを。

けれどそれはただの言い訳で、決して上手いとは言えないもの。

アルヴィンはただ、見ていることしかできなかった。





夕暮れ、きみの涙を拭えもしない最低な僕は





title thanks『啼けない小鳥のアリエッタ』



2011/10/20



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