頷くことを恐れない




長旅をしていると不足するものも多い。

久々に街に立ち寄れば、買い物は大変だ。

昼前に到着して、買い物を分担して、ようやく終わりが見えたのは空が赤く染まった頃だった。

遅くなってしまったと足を進めるジュードが動きを止めた。


「……エリーゼ?」


風にふわふわと揺れる柔らかな髪。

その後ろ姿を見つけ、ジュードは足を止めたのだった。

近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、放っておけない。

荷物を抱え直して彼女に近づいた。


「エリーゼ、どうしたの?」

「……」


チラリと視線を向けたあとで、完全に拒絶される。

拒絶、とは少し違った。

上手く言えないが、迷っているように見えた。

放っておいてほしい。

側にいてほしい。

そんな両極端な気持ちが見えたような気がしたのだ。


「わたし……」

「ん?」

「わたしは、一緒にいても、いい?」


その質問に瞬きを繰り返す。

どういう意味で問いかけられたのかわからなかったから。

わずかな沈黙が流れると、エリーゼは頭を振った。

先ほどの発言を取り消すように。


「いいに決まってるよ」

「……無理してそんな風に言わなくていい」

「無理じゃなくて……う〜ん……」


どう言おうか。

ジュードは流浪する風に答えを求めるかのように、真っ直ぐ前を見つめた。


「わたしは、今……」

「あんまり楽しくないこと、考えてるよね」

「……」


エリーゼは薄桃色の唇を噛みしめた。

そんなことをすると、傷ついてしまうのに。

ジュードはずっと抱いていた荷物をおろし、彼女に触れた。

怯えるように震えたが、彼の手を拒まなかった。


「少しずつ変わっていけばいいって」

「……?」

「自分の悪いところとか、相手を傷つけてしまったこととか。反省すべき点を見つけられる限り、人は良い方へ変わっていけると思うよ。すぐには無理だろうけどさ」


エリーゼは空を見上げ、そして足下を見つめた。

まるで、宙にジュードの言葉が書かれていたかのように何度かそれを繰り返して頷いた。


「だから、一緒にがんばろう?」


エリーゼは幻ほどの刹那、絵画の女神のように綺麗な笑みを浮かべた。





頷くことを恐れない





title thanks『たとえば僕が』



2011/04/04



(ティポ行方不明)

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