キッチンから聞こえるのは、軽快な調理音。
連弾をしているかのように重なりあう心地よい音色。
「ユーリ、そっちはどう?」
「もうすぐだな」
宿屋の厨房に立つのは、ファラとユーリ。
つい一時間ほど前のこと。
宿の厨房を任された料理人が、全員体調を崩したらしく、彼ら二人が代理に選ばれた。
重い症状ではなく、流行の風邪らしい。
客にうつすわけにはいかないから、という判断だ。
ユーリもファラもこの宿の主人と知り合いだったため、今日一日だけの臨時従業員になった。
もともと料理は好きだったので、二人はアイデアを出しながらメニューを決めて分担して作業にかかった。
「味見、頼めるか?」
「うん」
ファラは小皿を受け取り、傾ける。
「うーん……」
「濃かったか?」
「ああ、違うの。やっぱり、ユーリには敵わないなって思って」
「何言ってんだよ。オレはファラに敵わないと思うけどな」
4歳というのは、わりと大きな差だと思う。
特に成長期の4年は。
その差を感じさせないファラの腕前に、ユーリは感心していた。
「味はこれでいいと思うよ」
「サンキュ」
「時間がないから、急がないとね」
壁にかけられた時計は、昼食時間まであまり余裕がないことを告げる。
二人はそれぞれの作業に戻った。
黙々と手を動かせば、ふとした静寂が気になる。
本来ならば、もう少し賑やかな厨房も、人数が少ないため音も少なかった。
時間に急かされながら、作業は終了を迎える。
「完成だな」
「やったね」
さすがにこれだけの量を作った経験はない。
慣れた作業にも悪戦苦闘してしまった。
胸に溢れるのは、心地よい満足感。
「ほら」
「うん」
パシッと音を立てて、二人は手を合わせた。
発売まで、あと2日
2011/02/08