まだ水は冷たい。

川の中でエミルは大きなくしゃみをした。

岸にぺたりと座り込んでいたリアラは、慌ててエミルに手を差し出す。

彼女を濡らすことに躊躇っていた手をそっと伸ばした。


「ごめんなさい!」


岸に上がったエミルにリアラは頭を下げた。

その勢いに思わず距離を取りそうになる。


「謝らなくていい……くしゅっ」


くしゃみに邪魔されて最後まで言えなかった。

エミルがずぶ濡れになった理由は簡単だ。

足を滑らせたリアラを助けようとした結果、エミルが川に落ちたのだった。

彼女に渡されたタオルで頭を拭く。

一度着替えた方がいいかなと思いながら。


「本当にごめんなさい!!」

「そんなに気にしないでいいよ。それより、どうして……」

「あ、あのね」


気まずそうに瞳が揺れて、軽く唇を噛んだ。

言葉を選ぶように、何度も口を開閉させる。


「あのね、これ」


ずっと握りしめていた左手をおずおずと差し出した。

開かれた手には、リボン。

クシャクシャに丸められていたそれは、解放された途端リアラの手から逃げ出した。


「確か、贈り物だったよね」

「……ええ」


数日前、リアラの髪を飾っていたことを思い出す。

その時の彼女は、本当に幸せそうな顔をしていた。

つられて笑みを浮かべてしまうくらいの優しい空気だった。


「風に飛ばされて、掴もうとしたら……」


川に落ちそうになったらしい。

わかりやすい理由はエミルの嫌な予感を軽く払拭した。

安堵したのが顔に出たのだろう。

バカにされたと感じたリアラが唇を尖らせた。


「ご、ごめんっ……」

「これでおあいこね」


クスクスと笑うリアラ。

本来ならエミルが彼女の罪悪感を解き放たなければならなかったのに、完全に負けた。

端からリアラに勝てるだなんて思わなかったけれど。


「エミル、宿に戻りましょ。風邪を引いたら大変」

「そう――……クシュッ」


大きなくしゃみ一つ。

二人は並んで歩き出した。





発売まで、あと


2011/02/07



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