ビニール傘越し
甲高い鳴き声が辺りの空気を震わせる。
ピリピリと伝わる振動に、古雪はギュッと目を閉じた。
鳴き声が収まると、恐る恐る目を開ける。
明日はテストだというのに……目の前の異星人(アルゴル)に、怒りが込み上げる。
その怒りは大概、監視者(メルカバー)へ向くのだが。
「古雪さん」
「うん!」
ヤツは雷に弱い。
その情報を手に入れていたから、古雪は杖を構えた。
「守護者(ガーディアン)の名に於いて命ずる。使徒の鍵よ汝の力解放せん。雷よ我が手に集え。電撃閃光(アル・ナスル・アル・ワーキ)!!」
杖の先端から異星人(アルゴル)へ向かって一直線に走る雷撃。
雷が這う体を振り乱し、また1つ不愉快な鳴き声を上げた。
それは、絶好のチャンス。
「雫君!」
「罪を犯せし異星人(アルゴル)よ。敷居の守護者の裁きを受け。彼方なる監獄へ戻り給え。浄化転送(トランスポート)!!」
無事に戦闘を終えた二人はほっと息を吐き、変身を解いた。
「そう言えば、山田さんは?」
「さあ? 今日の見せ場はあなたたちに譲りますわとか言ってたけど……」
静かに、スムーズに終わることは悪くない。
二人は何かを誤魔化すように笑った。
――ポツッ。
頭に感じた何か。
「雨?」
空を覆う暗雲は、異星人(アルゴル)のせいではなかったらしい。
徐々に間隔は短くなり、本格的に降りだした。
「古雪さん、こっち!」
雨宿りできる場所へ案内してくれた。
わずかな距離を走っただけなのに、頭や肩はしっとりと雨を吸い込んでいる。
「今日、雨って言ってたっけ?」
「そんな予報じゃなかったと思うけど」
表に干してきた洗濯物の行方をイメージし、心に鉛が浮かんだ。
「ちょっと、待ってて」
暫く離れた雫が戻ってきた時、その手にはビニール傘が握られていた。
「古雪さん、明日テストでしょ。早く帰った方がいいんじゃない?」
「え? でも……」
「僕なら大丈夫だから」
大丈夫だと言われても、雨はまだ止みそうにない。
それどころか、益々強くなる。
雫一人この場へ残すことは躊躇われる。
「あ、あのね、一緒に帰らない?」
「方向が違うけど」
「……えと、ね」
上手い言葉が見つからず、へらりと笑った。
それで伝わったのか、雫は傘を広げて古雪を誘う。
「それなら、早く行こう」
「うん」
近い距離に動揺し、視線が行き場を失う。
何となく見上げたビニール傘越しの空。
強い雨は、まだ続きそうだ。
2010/06/29