水浸しの街



本日のレベイユは、夜明け前から雨だった。

嵐のような強い雨ではなく、小雨のような弱い雨でもない。

雨だとしっかり主張しながら、休むことなく降り続いていた。


「さすがに、今日は中止でしょうか」

「どうでしょうネェ……」


ケーキの中心にフォークを突き刺し、パクリと食べるブレイクを前に、シャロンは優雅にカップを傾ける。

少し冷めていた。


「お嬢様、どこか嬉しそうな顔をしていますネ。雨がお好きなんデスカ?」


シャロンはブレイクの肩に乗っているエミリーを一瞥した。

その瞳はいつもよりわずかに暗いことに、彼女は気づいていないだろう。


「……どうでしょう」


ソーサーにカップを戻し、テーブルへ。

静かに立ち上がると、シャロンは大きな窓の側に立った。

ガラスを伝う雫に重ねるように、人差し指で触れる。

ひんやりとした窓の感触。

ふぅ……と息を吐けば、白く曇った。


「……お嬢様?」


パクリともう1つケーキを口に放り込んで、ブレイクが彼女を呼んだ。

その背中が小さく見えたから。


「ブレイクもご覧になります? 雨をかぶる街を」

「遠慮しますヨー」

「そう言うと思っていましたわ」


ふふっと笑った。

笑えていると、何故か安心した。


「でも、お嬢様と一緒なら良い暇つぶしになるかもしれませんネー」

「暇つぶしとは何ですか」


振り返ったシャロンの目に映ったブレイクは、いつもと違う雰囲気だった。

焦燥感。

シャロンは柔らかい絨毯を蹴って彼の側へ急ぐ。

そして、その腕を掴んだ。


「何デスカ?」

「勝手にいなくなろうとしないで……」


突然の行動に驚くことなく、ブレイクはぽんぽんと優しくシャロンの頭に触れた。


「オヤツがなくなったので、買い物に行きますか」

「ブレイクがどうしてもと言うなら、暇つぶしに付き合いますわ」


温かい室内の空気とは正反対に、冷たい雨はまだ止まない。





2010/06/27




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