雨の日のにおい



静かな雨が空と地面を繋ぐ。

すべてを癒すような優しい雨。

それなのに、胸を締め付けるこの切なさは何だろう。


「ミレット、ここにいたのか」

「ん? どうしたの?」


それなりの時間、雨の中を走り回っていたのだろう。

ロストの体は濡れていた。

クシャミ1つして、雨宿りをしているように見えるミレットの隣に並んだ。


「風邪、ひくよ?」

「そうだな。ミレットがいつもの場所にいてくれてたら、助かった」

「うっ……。そういうこと言う?」


服の上を転がる雫を叩(はた)くように払い、ロストは何かおかしなことを言ったかと首を傾げた。

こういうところも彼らしいから、ミレットは何も言えない。

それをわかっていてしているのだろうか。


「それで、どうして私を探していたの?」

「……今朝は顔を見てなかったから」

「え?」

「ミレットの顔を見ないと、落ち着かないんだよ」


確かに今日は『作戦会議』もなく、何かとバタバタしていたから二人は顔を合わせていなかった。


「そういえば……。ふーん」

「どうした。随分、意地の悪い顔をしているぞ」



(どうしてロストはこんなにストレートなんだろ……)



ハァと飛び出したため息は、雨の空気に溶けた。


「ミレット?」

「確かに私もロストの顔見ないと、1日が始まったって感じがしない」

「……そうか」

「今、何を言おうとしたの?」

「大したことじゃない」


クシュンと、ロストの言葉にクシャミを重ねたのはミレットだった。


「寒いのか?」

「そうみたい」

「部屋に戻ろう」

「う、ん……」


歯切れの悪い返事。

ロストの顔に疑問が浮かんだ。


「色々ヤなこと考えちゃって、雨の中にいればちょっと落ち着くかなって」


雨の中と言ったが、雫を遮る場所からそれを眺めているだけ。

心地よい音が、今は癒してくれる。

隣に立つ彼のおかげだろうか。


「ロスト、戻ろう」

「もういいのか?」

「うん。だって、あなたがいてくれるから」


鈍感すぎる彼にその言葉が正しく伝わったかどうかは、わからない。





2010/06/26




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