握った手に絡めた視線
何となく、眠れない。
布団に入ったものの睡魔は訪れず、ぼんやりと天井を見つめていた。
両隣のベッドにいるエステルとパティは早いうちに眠ったし、夜中に部屋を抜け出すジュディスも半時間くらい前に戻ってきてもう寝ていた。
一人、目が冴えているリタも何度か眠ろうとした。
それなのに、眠れない。
「はぁ……」
小さなため息さえ大きく聞こえる夜中という時間。
彼女たちを起こさないように、そっとベッドから抜け出す。
そのまま部屋の外へ。
外の空気でも吸えば、気分転換になるだろう。
そう考えて、宿を出た。
数分も歩くことなくリタの散歩は終わりを迎えた。
「……何してんの?」
「それはこっちの台詞だ」
リタの右腕を掴んだまま、ユーリは離そうとしない。
やけに熱い。
振り払おうともせずに、力を抜いた。
「何となく眠れないから、外の空気を吸いに来ただけ」
「こんな時間に女の子一人だと危ないだろ。付き合う」
「あんたといる方が危ない気がするんだけど」
「何だよ、それは」
離された手を少し寂しく思いながら、リタは先に歩く。
ひんやりとした夜の風が心地よい。
「なあ、リタ」
「何よ」
ツンとした可愛げのない言い方。
またやってしまったと少し後悔する。
いつものことだと言われたら、その通りだ。
普段通りに会話を続けるユーリを見て、何故だか寂しくなった。
「……って話だったけど、どう思う?」
「特に何も。好きにすればいいんじゃない?」
「リタらしいな」
「ありがと」
褒め言葉として受け取る。
空にはキラキラと輝く星。
気持ちいい夜だと思った。
「リタ」
それはいつもより優しい呼び方。
ドキリと心臓が跳ねた。
「な、何?」
上ずった声に気づかない。
真っ直ぐに向けられた真剣な瞳は、リタの呼吸を奪う。
両手を握られた。
優しい温もりが伝わってくる。
「……?」
彼が何を言いたいのか探るように、その瞳を見つめた。
フッとごく自然に縮められた距離。
拒む必要などなく、それを受け入れた。
2010/06/29