伝えたい今のキモチ



「アスベル、何か考え事?」


同じ部屋にいれば、微動だにせずそこに座っているアスベルに疑問を抱くだろう。

眉間に皺を寄せたまま、そろそろ半時間。

声をかけたら邪魔をする、と遠慮していたソフィもさすがに心配になった。


「あ、ソフィか。いや、何も考えていないよ」

「じゃあ、ぼんやりしていただけ?」

「そんなことはな……ある、かも……」


じーっと見つめるソフィの純粋な瞳に、アスベルは嘘がつけない。

これだけ綺麗な瞳の前では、嘘が重度な罪悪感を生む。


「何か心配なことがあるの? わたしに手伝える?」


気遣っているソフィの心にどう答えるべきかと少し悩んだ。

その少しの時間が、ソフィには長かった。


「……何でもいいの。わたしにできることを言って。アスベルの力になりたいから」

「ソフィ……」


拳をギュッと握り、ソフィは真っ直ぐアスベルを見た。

それは、アスベルの背中を押すには十分だった。


「ありがとう。ソフィは俺の話を聞いてくれるだけでいい」

「それ、だけ?」


拍子抜けなソフィの表情にわずかな不安が浮かぶ。

役に立てない、そんな言葉が浮かんでいたから。


「ソフィ」

「何?」

「無理に返事をしなくていいから、ただ聞いてほしい」

「……うん、わかった」


アスベルが作った話をする空気。

ソフィはその空気に刺激されたようで、わずかに姿勢を正した。


「こういう時、どんな言葉を選べばいいか……とかよくわからない。けど……」

「うん」

「俺はずっとソフィと一緒にいたい」

「うん。わたしも」


ああ、伝わっていないなとアスベルはため息をつきながら、心で思った。


「俺が死ぬ時まで一緒にいてくれるか?」

「アスベルこそわたしが……」


アスベルは彼女の口を塞ぐ。

ソフィの口からその言葉が出てくることに恐怖を感じたから。

自分が先に言っているのに。


「アスベル?」


くぐもった声が聞こえてくる。

慌てて手を離した。


「ごめん!」

「ううん。あのね、わたしもアスベルに言いたい言葉が浮かんだの」


儚く消えそうな微笑みを浮かべ、ソフィは幸せの旋律を紡いだ。





2010/06/27




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