運命だと思わないか



「見てください、ユーリ」


真っ白なドレスを身に纏ったエステルは、クルリと回った。

空気を吸い込み、ふわりと膨らむドレス。

まるで、彼女が好みそうな本のワンシーンだ。


「似合わない、です?」


感想を述べなかったから、エステルは眉を下げて落ち込んだ。

まず最初に子どもっぽい反応が浮かんだが、あんまり彼女を苛めると叱られる。

ここは素直に言うことにした。


「エステルらしくて、よく似合ってるぜ」

「!!」

「何だよ」


珍しくストレートに言葉にしてみれば、エステルの瞳が大きく開かれた。

それは、嬉しいという意味ではなく、純粋な驚き。

ここまで驚かれると思わなかったユーリは複雑だ。


「何だよ。似合わない、とか言ってほしかったのか?」

「違います。ただ、その……何か悪いもの食べました? リカバーします?」

「オレ、そんなに状態異常か?」


手をかざしたエステルは、冗談ではなく本気だった。

これが日頃の行いかと少し寂しくなった。


「いえ、ユーリがそんな風に言ってくれたの初めてで……。えと、ありがとうございます」


『腑に落ちない』と顔に書きながら、けれど不快な顔をせずに微笑んだ。


「何かさ」

「何です?」

「それに皺作ってもいいか?」


ユーリが指差したのは、エステルが身に纏っている純白のドレス。


「えと……どういう意味、です?」


真新しいドレス。

エステルのために、デザインして作られたもの。

彼女にしか着ることを許されないもの。


「こういう意味」


少し乱暴に彼女の体を抱きしめた。

力を込めたら壊れてしまいそうに儚い、けれど強い心を宿した体。


「なあ、エステル」

「……はい」

「エステルは信じるか? 運命ってヤツ」


息を飲んだ。

そして、呼吸を整えるように繰り返し、聞こえてきた言葉。

背中に回された手に、ユーリはドキリとした。


「ユーリと出会えたことは、運命だと思います」

「じゃあ、こうして側にいることも……」





2010/06/26




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