「う〜ん……」


もう半時間くらい経つだろうか。

食堂の角の席に座っているパスカルは、ずっと唸っていた。

閃きの神様に嫌われてしまったらしく、様々な案が上書きされた脳内は完全に混乱している。

チョコレートプリンを掬ったスプーンを、フラフラと危なげに上下させた。

揺れるプリンを見て浮かぶのは、あの時のアスベル。


『ごめん、パスカル。どうしても会えなくなった』


先に約束したのは、パスカルだった。

つまらない用件なら、文句の言いようもあるのだが。


「ラントのことなら、仕方ないじゃない」


パクリ。

滑らかにとろけたチョコレートプリンは、優しい甘さだったが、残念ながら今のパスカルには味がわからない。

二口目を運びながら、また考える。

時間はあまりない。

迷惑をかけずに、会う方法を見つけるために……。


「決めた!」


何をどう考えようが、アスベルには伝わらない。

彼の鈍感さは異常なのだから。

それなら、正面から突撃するしかない。

パスカルは自信作を入れた袋をそっと持って、ラントに向かった。






「やっほ〜!」


執務室の扉をノックして、返事を聞いてから、部屋へ入る。

元気よく手を上げれば、椅子に座っていた彼は固まってしまった。


「ありゃ? アスベル?」

「パス、カル?」

「うん、あたし。ハッピーバレンタイン〜」


アスベルの邪魔にならないであろう場所に、一応の自信作を置く。


「……まさか、こんな風に来るとは思わなかった」

「そう? 意外とわかりやすいと思ったけど」

「確かに、らしいと言えば、らしいか」


アスベルは立ち上がり、パスカルの側に立った。


「ごめん」

「別に謝らなくていいって。その代わり、これ食べて笑ってよ。疲れた顔してるしね」

「ありがとう」


それは、日付が変わる間際のお話。






君に会えないバレンタイン

無理矢理会いに来たよ。
今日じゃないと、意味ないから。




E N D



2010/02/12




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -