ふわりふわりとジェノスの本部を漂うのは、甘い香り。
発生源にいるシュガーはいつもより真剣に、作業に集中していた。
料理は、あまり得意ではない。
今まで何度も挑戦し、少しは上達しているが、『得意』とは言えなかった。
「ハニー?」
危うく焼き上がったケーキを潰すところだった。
心臓がバクバクと激しい音を立てる。
エプロンの上から胸を押さえ、シュガーは深い息をついた。
テーブルの上をそのままに、愛する彼の元へ走り出した。
「ダーリン!」
「ハニー! どこにいたんだい? 姿が見えないから、心配したよ」
「ごめんね。ちょっと用が……」
包むように壊さないように優しくシュガーを抱きしめたイルが、首を傾げた。
「仕事はなかっただろう? 何をしていたんだ?」
「あのね。えと……ダーリンには、内緒」
「……」
あからさまなその表情に、シュガーは苦笑する。
「そんな顔しないで。ダーリンが心配することなんて、何もないから」
「ハニーがそう言うなら……」
納得できないと書いた顔で、渋々シュガーを離す。
「後で、いつもの場所に来て」
「わかった」
イルの姿をしっかり見送った後で、シュガーは調理室へ戻った。
それから半時間後。
「待たせてごめんね。イルにプレゼント」
小さな薔薇が散りばめられた包装紙に、真っ赤なリボン。
小さな箱を差し出す。
「これは……」
「バレンタインチョコ。ダーリンの為に作ったの」
「ハニーが!?」
予想以上のリアクションは、不快なものではなく、満足感を得られるもの。
「あ、あのね、一応味見もしたんだけど……」
自信なく告げれば、イルは優しく微笑んだ。
言えない気持ちはチョコレートに溶かして
言葉じゃ伝えきれないほどの『愛してる』が、貴方に届きますように。
E N D
2010/02/10