※微流血表現注意。
ため息を吐く彼女を前に、ラタトスクは舌打ちした。
そして、向けられた鋭い視線から逃れるように顔を思い切り逸らした。
「私に何の用だ」
低い、不機嫌満載な声。
ラタトスクも似たような声で返す。
「別にねぇな」
「なら、さっさとどこかへ行け」
「俺がどこにいようが、自由だろ」
「何だ、と……っく」
クオリは眉間にシワを作り、奥歯を噛み締める。
無駄に動くからだとラタトスクは嘲るように心の中で吐き捨てた。
チラリと視線を向ければ、クオリの左足を伝う赤。
また新たに一筋作った。
太股をザックリ引き裂いた魔物の爪痕。
痛みを誤魔化そうとしているが、それは無理だ。
それに、あの魔物の爪には毒がなかっただろうか。
ラタトスクは一人考える。
「貴様がここにいるというなら、私がここから離れる」
座っていたクオリは、右足に力を入れて立ち上がった。
これだけ動けば、治るものも治らないだろう。
ラタトスクに治癒術は使えない。
放っておけばいい少女に構いたくなるのは、ただの気まぐれだ。
「おい」
「何だ」
今までもたれかかっていた木を支えに、何とか立っているクオリはまた鋭い瞳を向けた。
まるで、人を殺す凶器のような瞳。
「ほらよ」
「何の真似だ」
クオリに背を向けて、しゃがむ。
おんぶをする態勢だ。
バカにされたと思ったのか、彼女の顔がカッと染まる。
「貴様をここで倒してやろう」
スペックツールを彼の背中へ突きつける。
上手く体を支えられていないから、フラフラと揺れて頼りない。
「ここで死にてぇっつーなら、止めないけどよ。やるべきことがあるんじゃねぇのか?」
いつもより幾分か優しい声音。
諭すようなソレにクオリは手を下ろした。
うつむいてしまったから、表情が読めない。
下から見上げる形のラタトスクの視線は、彼女の前髪に遮られた。
「……借り、ではないからな」
「まあ、俺が勝手にやったことだし」
背中にかかった重さは、予想していたよりも軽いもの。
クオリを落とさないように、ゆっくり立ち上がる。
「なあ……」
「何も言うな。喋るな。黙れ」
早口に並べられた。
彼女が気にするようなことを言うつもりなどなかったのに。
暫く無言で足を進める。
「服、悪かったな」
彼女の血が伝ったことを言っているのだろう。
「んなこと一々気にすんなよ」
「……思っていたより、随分まともな人物なんだな」
「どういう意味だ」
そのままの意味だとは思いつつ、そう言ってみる。
小さな抵抗だ。
フッと耳元で笑い声が聞こえた。
「やはり、これは『借り』だな」
「はあ?」
「貴様のために、私が立派な墓を作ってやろう」
彼女なりの感謝の表現方法。
だが、まったく嬉しくない。
「遠慮する」
「何故だ。貴様に遠慮は似合わん」
宿に到着するまで途切れることのなかった会話。
彼らを見かけた者の目には、随分仲の良い2人に映っていた。
まもののおう
ラタトスク(TOS-r)
と
いしく
クオリ(AC)
10/09/17〜10/09/30