じわじわと這い上がってくるような痛みに、アリスは唇を噛んだ。
思いきり歯を突き立てれば、血が流れ込んでくる。
何もかもに苛立ち、盛大なため息をついた。
「ちょっと、そんな顔しなくても」
「誰のせいで、アリスちゃんがこんな目に遭ってると思ってんの?」
「え? ボクのせい?」
「それ以外ありえないでしょ」
目の前に立つキリクは、大きく瞳を開いた。
そのままゆっくり瞬きをする。
話は半時間ほど前に遡る。
アリスはエクスフィアがあるとの情報を得て、この森を歩き回っていた。
キリクはこの森に自生するハーブを採取するために、歩いていた。
偶然同じ場所にいて、顔を合わせた。
アリスはすぐさま彼を始末しようとした。
彼の足元にエクスフィアがあったから。
それを回収するための攻撃だった。
そのことに気づかなかったキリクは、咄嗟に防御し身を守る意味で反撃に出た。
そのあとは、完全に事故だ。
つい先日の大雨で地盤がゆるんでいたことを思い出した時には遅く、二人は数メートル下へ落とされた。
ため息一つ。
キリクは、確かめるようにスペックツールをクルリと回した。
「何するつもりなのよ。アリスちゃんを殺す気?」
「……あのね、ボクはパティシエだよ?」
「パティシエって、アイスピックを振り回すものだったかしら?」
キリクは己の手へと視線を落とす。
そして、まさかと呟いた。
「足、平気?」
「何のこと?」
「捻ったんだよね。ボクで良ければ応急処置するけど……」
アリスは笑った。
嘲笑った。
それは彼女自身に向けたものだったのか、それともキリクにか。
「バカにしないでくれるかしら?」
「うーん……。バカにしたつもりはないんだけどな」
「アナタのすべてが、私をバカにしているの。わかる?」
言葉一つ一つ区切るようにはっきり口にした。
まるで幼児に話しかけるように。
目一杯の殺気を込められた言葉。
それには答えず、キリクは無言でアイスピックを地面に突き刺した。
霜柱、いや地面に生えた逆さまの氷柱。
氷のトゲがアリスに向かって走る。
舌打ち一つして、アリスはそれを避けるために跳んだ。
跳んだのだが、足の痛みに引きずりおろされる。
「ほらね」
津波のようにアリスを襲っていた氷柱が勢いを消す。
痛む足を睨み続ける彼女に近づいた。
「はい」
口の中に放り込まれたもの。
吐き出そうとしたアリスは、その甘さに留められた。
「……キャラメル?」
「そうだよ。痛み止めのね」
「甘ったるい」
吐き出した言葉は毒のようなもの。
けれど、その甘さは確かにアリスの足から痛みを奪い去った。
普通に歩けることに目を見張る。
「一時的に痛みを感じないだけで、怪我が治ったわけじゃない。無理はしない方がいい」
「……お礼なんて言わないから」
「構わないけど、可愛くないね」
「お互いさまよ」
二人は同じ道を歩き始めた。
う゛ぁんがーどせんとうはんりーだー
アリス(TOS-r)
と
パティシエ
キリク・オスレイル(仕立屋)
11/02/15〜11/02/28