浮かんだものを片っ端からメモした。
まとまりなく書き散らしたものが、10や20では済まない。
パスカルの周りには、紙の海ができていた。
これだけ書いても、まだ納得のいく答えが得られない。
まとまらない思考にガシガシと頭をかきむしる。
「パスカル?」
「ん? ああ、アスナージ。久しぶり。どしたの?」
くわえていたペンを紙の上に転がし、パスカルは立ち上がった。
ボサボサの頭を手ぐしで軽く整えながら。
「君のお姉さんに頼まれたんだよ」
アスナージに渡された袋の中身は、ポットとバナナパイ。
パスカルは子どものように瞳を輝かせた。
「さっすが、お姉ちゃん! ありがと、アスナージ」
「ほら、休憩しないと」
慣れた様子で、アスナージはパスカルが散らかした紙をそろえていく。
(お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなー……)
てきぱきと軽く片づける姿を見ながら、バナナパイをかじった。
繊細そうに見える彼だが、中身は大雑把なところもある。
それが、パスカルにとって救いだった。
彼が神経質だったら……それを考えるだけで恐ろしい。
「パスカル」
「ん?」
「食べるなら、座ってくれ」
「はいはい」
勢いをつけて椅子に座れば、高い悲鳴を上げられた。
背もたれに体重を乗せて、体を反らす。
使い古された椅子は、また鳴いた。
バナナパイをくわえたまま少し考える。
「ねえ」
「何だい?」
「あたしに何か用事があったんでしょ?」
アスナージはポットの中身をカップに注いでいた手を止めた。
「まあ。それにしても、よくわかったな」
「いくらお姉ちゃんに頼まれたからって、団長さんがパシりにはならないでしょ」
ペロリと食べてしまった。
少し寂しく思いながら、2つ目に手を伸ばす。
「俺の用事は大したことないけど」
「ウソ、だね」
「……」
「あたしを試してるの?」
パクリと一口。
美味しいという言葉を数え切れないほど並べた。
心の中で。
「君を試して、俺に何の得があるんだ?」
「多分、これから話すことに関係あるんだよね〜? 秘密厳守なダイジな話だね」
アスナージに渡されたカップを傾ける。
バナナパイの風味を殺すことなく、喉を通っていく温かさに目を細めた。
「どうやら、俺の負けだな」
「勝負だったの?」
「とりあえずは、君のお姉さんとね」
「じゃあ、アスナージがあたしに会いに来た理由を教えてくれるんでしょ?」
「……ちょっと協力してほしいことがある。君の3日を俺たちにくれないか?」
まだ曖昧な言い方だった。
はっきり言わないのは、この場では言いにくいからか。
誰かに聞かれる心配はないだろうに、とパスカルは思う。
それだけ慎重に動かなければならないことらしい。
「いいよ。じゃ、行こっか」
「助かる。ありがとう」
「お互い様だからね」
ニッと笑ったパスカルは、アスナージと共に部屋を出た。
彼の話を聞く前に、風呂場に閉じ込められるのは数分後の未来。
てんさいぎじゅつしゃ
パスカル(TOG)
と
こうよくのななきしだんだんちょう
(深紅のアスナージ)
アスナージ・セルベル(SNG)
10/12/08〜10/12/31