山賊の頭と剥製師




※モーゼスの口調に自信なし





豊かな緑に包まれたその場所は、一般人が好んで訪れる場所ではない。

鬱蒼と茂るそこは、観光地には不向き。

魔物が好んで巣を作る場所だから、当然だ。

何度か討伐隊を出したらしいが、すべて失敗に終わっている。

失敗というか、直前に中止したというべきか。

魔物の住処を奪うということはつまり、人に危害が及ぶということだから。


「のう、ギート」

「ガウ?」


名前を呼ばれたグランドガルフはモーゼスを見上げた。

疑問を浮かべたように首を傾げている。

が、すぐにほのぼのとした空気に緊張が走った。


「ガウ、ガウガウ!!」


突然叫び出したことにモーゼスは少し驚いた。

が、すぐに武器を構えそちらへ向く。


「何の用じゃ」


尖った刃先が捉えたのは、一人の少女……と、小さな犬。


「こんにちは」


武器を向けられている状態で、彼女は微笑んで見せた。


「何の用じゃと聞いたん……」

「貴方に迷惑をかけるようなことではありませんし、たとえそうだとしても……。ねぇ、クー」


彼女の足元にいる子犬は応えるように鳴いた。

彼女たちの間に流れるのは、ほのぼのとした空気。

しかしモーゼスは槍を下ろさなかった。

ギートも威嚇するように唸ったままだ。


「そんなに怖い顔をしないでください。少し散歩しているだけですから」

「……今はその言葉を信じちゃる」

「はい」


ウワラは子犬――クーと一緒にモーゼスに近づいた。

あまりに堂々とした態度。

それに押されるように半歩下がってしまった。


「お二人はここで何をされていたんですか?」

「ワレには関係ないじゃろ」

「そうですね。少し興味があっただけです」

「……ただの見回りじゃ。最近はこの辺りも物騒じゃからのう」

「素敵ですね。ご一緒してもいいですか?」


ここで反対したところで、結果が変わるとは思えない。

些細な抵抗ほどの沈黙を挟み、モーゼスは頷いた。

そして、歩き出す。


「ところで、質問です」

「何じゃ」

「あなたが守りたいのは、人間ですか? それとも、彼らですか?」


モーゼスは足を止め、近くの木に触れる。

縄張りを示す爪痕がそこにあった。


「んなもん、決まってる。両方――……」

「砂糖菓子よりも甘いんですね。そんなあなたに守れるものなどありません」


冷たい。

氷のように冷たい声だった。

背後の気配に気づいているが、モーゼスは振り返らない。

小さかったクーは、大きな獣に姿を変えていた。


「散歩しちょったんじゃないんか?」

「はい。散歩ですよ。私はあなたを殺そうなどとは思っていません。気分転換、じゃいけませんか?」

「……ほうじゃの」


背後の気配をそのままに、モーゼスはギートと共に再び歩き出した。





さんぞくのかしら
モーゼス・シャンドル(TOL)
はくせいし
ウワラ(AC)




10/10/29〜10/11/11

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