呆れたと書いた顔でアニスは目の前の少年を見つめた。
見つめる、というよりは睨むのほうが正しい。
包帯が巻かれた右腕。
その白に滲むアカ。
「確か、先週辺りに治りかけてたよね? 何したの?」
「ガキには関係ねぇだろ」
吐き捨てた台詞。
そう年は変わらないのに(4歳は大きな差か)、年上ぶる火炎はかなり苛立っていた。
『ケンカ』に負けたのだろうか。
今まで我慢していたため息が、ついにこぼれ落ちた。
「だったら、ここに来なきゃいいでしょ」
「お前が来るな。知ってんだろ」
「火炎のお気に入りだもんね」
いつだったか空気が好きだと言った店がここだ。
はっきり言えば、似合わない。
火炎自身もそれは思っているらしく、毎回訪れる時間を気にしていた。
アニスもこの店は好きだ。
フルーツタルトが絶品で、自分でも作ってみようとしたが上手くいかず。
新作が出る度にここを訪れていた。
「せめてもう少し、ニオイ気をつけたら?」
「着替えてきたんだけどな」
纏う空気がわずかにアカを含んでいる。
それより気になるのは、燃えたニオイ。
一般人は気づかないレベルだが、アニスはこう見えても導師守護役。
嫌でも戦は何度も目にしていた。
「気にしてんのは、あたしくらいだし。まあ、いいんじゃない?」
「それより、何で同じテーブルにいるんだよ」
店が混んでいるわけではない。
適度に客は入っているが、空いている席もある。
それなのに、アニスは火炎と同じテーブルにいた。
「そんなのわかってるでしょ?」
ニッコリと微笑めば、すぐにわかったらしく、あからさまに嫌な顔をした。
「奢らねぇぞ」
「そんなこと言わないでよ。四天死サマ」
「……帰る」
「ごめんってば。奢ってもらおうなんてしないから、座ってよ」
珍しく素直にアニスの言葉に従った。
久しぶりにここに来たこと、店に来たばかりだということがその行動にさせたのだろう。
「それで、本当の目的は何だよ」
一通り楽しんだあとでの質問。
バレていたのかと実際の感情に反して、困った顔を作ってみせた。
「それくらい普通に気づくぞ。言いたいなら早く言え」
「もうちょっと、話しやすい雰囲気を作るとかできないの?」
「文句があるなら、別のヤツに頼むんだな」
火炎らしいというか何というか。
こんな風に話を聞いてくれるのだから、アニスに対してはわりと優しいような気がする。
「おい」
「はうあっ。ごめーん」
「さっさと話せ。あんまり遅くなると怒られるんだよ」
「わかってるって」
アニスは話し始めた。
導師を守るために戦うことを。
その協力を。
フォンマスターガーディアン
アニス・タトリン(TOA)
と
かやくし
火炎(AC)
10/10/15〜10/10/28