ザーフィアスの市民街を歩くユーリは、手元のメモへと目をやる。
お世話になっているおかみさんからのおつかいメモだ。
走り書きの内容に何度か目を通す。
時間や手間が異常にかかるようなものではなかった。
すべての用事を終えたユーリは、顔見知りの少女を見つけゆっくり距離を埋めた。
「ティアベル家のご令嬢がこんなトコで何してんだよ」
「ひゃっ。……なんだ、ユーリだったのね」
「また抜け出して来たのか?」
「失礼ね。そんなことはないわ」
視線を逸らしたところを見ると、確実に抜け出してきている。
ユーリには彼女を止める義務はない。
止めようとも思わない。
ミレットは自ら危険なことをしないから、その点は安心できる。
本人が無茶をしなくても、巻き込まれる時は巻き込まれるだろうが。
「まあ、オレには関係ないからな」
「そ、そうよね」
「……おい」
表情に出やすい彼女。
ユーリを何かに巻き込んだと言っている。
しかも、それを話したくないと。
「ミ、レッ、ト」
「うぅ……。あのね、『ユーリのところに行く』ってメモ残して来たの」
「……」
そのメモを見た人間はどう思うだろう。
いつだったか忘れたが、ミレットの言葉足らずのメモが原因で、紅翼の団長に剣を向けられたことがあった。
「ごめんね。どうしても行きたい場所があったの」
「行きたい場所? まあ、ここで会ったのも何かの縁だし、付き合ってやるよ」
「ホント!?」
「その代わり、早めに帰れよ」
「ええ、わかったわ」
ニッコリ笑った彼女は、安堵の表情を浮かべていて、やはり一人では不安だったのだろう。
彼女の話を聞くと、行ってみたいと言ったのは、最近できたばかりの雑貨屋。
ユーリは何度か店の前を通ったことがあった。
ここから近いこともあり、すぐに案内できた。
「ここだろ?」
「うん、ありがとう!」
キラキラと輝く瞳でガラスの向こう側を見つめる。
「ちょっとだけ待っててね」
一言残し、ミレットは賑わう店内へと姿を消した。
・ ・ ・
「お待たせ」
長時間待つつもりでいた。
しかし、彼女は随分早く出てきた。
袋を持っているところを見ると、買い物は無事に終わったようだ。
「これ、今日付き合ってくれたお礼」
何かを確認する前に握らされた。
チリンと鈴の音が残る。
「本当にありがとう。じゃあね」
走っていく彼女を見る限り、すぐに屋敷に帰るだろう。
玄関先まで送ろうかと考えて止めた。
途中で鉢合わせになる可能性もあるから、それは諦める。
右手を開けば、黒猫のキーホルダーが揺れて、小さな鈴を鳴らした。
もとていこくきし
ユーリ・ローウェル(TOV)
と
あおのはなひめのまつえい
ミレニアンティーエット・ティアベル(SNG)
10/10/15〜10/10/28