砂ぼこりが舞う道をヒューバートは足早に歩いていた。
大統領への報告を終え、次の仕事へ切り替える途中。
彼の足がピタリと止まった。
「何か用ですか?」
「……見つかりましたか。さすがですね」
「気配を消さずに現れた貴方に言われたくないですよ」
ヒューバートの背後へ飛び降りた気配。
暫く悩んで振り返った。
いつもと変わらない無表情にも不機嫌にも見えるカオの少女がそこにいた。
白銀色の短い髪が揺れる。
「改めて訊きますが、何の用ですか?」
「ヴィンセント様から、ヒューバート様へのお手紙を預かってきました」
エコーが取り出したのは、白い封筒。
金色の髪の青年の笑みが、ヒューバートの脳内に浮かんで消えた。
あまり得意ではない部類の人間だ。
「どのような内容なのか知っていますか?」
「エコーが知るはずありません」
そう言って、彼女は一歩近づいた。
そして、ヒューバートの前に手紙を突き出した。
早く受け取れと視線を向けられる。
数秒悩んで、それを受け取った。
随分薄い封筒だ。
彼女の瞳に促され、ヒューバートは中身を確かめることにした。
便箋の中央に記号のような暗号のような文字が10個。
「……どういう意味ですか?」
「エコーは何も知りません。では」
逃げようとした彼女の手を咄嗟に掴む。
「待ってください。もう少し話を聞かせてもらえませんか?」
「お断りします。エコーは早く帰り、次の仕事をしなければなりません」
「では、これだけ。一体、どういう意味ですか?」
ヒューバートは受け取ったばかりの手紙を彼女の前に出す。
ムッとした表情を見せたエコーは、ふて腐れたように吐き捨てる。
「知りません。わかりません。興味ありません」
「……知っていますよね?」
「……」
ぷいっと向けられた瞳は、地面を強く睨んでいる。
珍しい。
ヒューバートはそう思った。
彼女がこんな風に感情を出している姿を見たことがなかったから。
「エコー?」
「……珍しいこともあるものですね」
名前を呼べば、大きく開いた目を向けられた。
自分が数秒前に思ったことと同じ言葉を聞くとは思わなかった。
「何がですか」
「エコーは、ヒューバート様に名前を呼ばれたことがありませんでした」
「そうでしたか?」
「はい。ものすごく、不自然な感じがします」
名前など何回も呼んでいたような気がしたが、過去を思い起こしてみれば確かに呼んだ記憶はなかった。
「……で、これはどういう」
「失礼します」
気がつけば、彼女はヒューバートの手から逃れていた。
そしてそのまま一礼して逃げられる。
「まあ、いいんですけどね」
受け取った手紙を一瞥し、ヒューバートは歩き出した。
ストラタぐんしょうさ
ヒューバート・オズウェル(TOG)
と
はんきょうおん
エコー(PH)
10/10/15〜10/10/28