ずっと捜していたはずだったんだ




※本編前設定?

※ネタバレあり

※カプではない






「ニール」


薄い闇の中で、彼女の名を呼ぶ。

今は穏やかに眠っているから、声は届かない。

柔らかい頬にそっと触れれば、彼女の存在を感じ取り胸があたたかくなった。



(いずれ彼女は――……)



逃れられない呪いの鎖は、決して彼女を離さない。

がんじがらめに縛りつけ、やがて彼女をただ生きているだけの醜い肉塊へと変えてしまう。

嫌な未来だ。

スカールは軽く頭を振って、その映像を意識の外へと追いやった。

こぼれそうになったため息を押し殺し、彼はニールから離れる。

冷たい靴音がやけに響く。





動き始めた。

廻り始めた。

運命とも、宿命とも、使命とも呼べる歯車は、もう止められない。

止めるつもりはない。

これが止まるのは、きっと英雄が新たな世界を迎える瞬間。

新しい世界を何よりも望んでいるのは、スカール自身。

そして、歴代の領王か。

新しい世界は、きっと美しいはずだ。

希望溢れる世界にわずかに頬を緩めた。

残念ながら、スカールがその世界を生きることはできないだろう。

それを思うと、胸が痛む。

胸を痛める現実など、これから嫌というほど見つめなければならないのに。


「スカール……?」


遠慮がちな声が聞こえた。

起こしてしまったかとほんの少しだけ後悔し、何ともない表情で振り返る。


「どうしたんだ、ニール」

「何か考えていたのね」


不安に揺れる彼女の瞳。

その瞳に答える言葉はない。

彼女の前に立つと、不安の色がより濃く見えた。


「私にできることがあれば……」

「ニール。キミはここにいるだけでいいんだ」


ニールは手を伸ばし、スカールの頬に触れた。

それは先ほどの彼のように。

まるで、静電気。

反射的にピシャリと彼女の手を払ってしまった。

ニールは驚いた様子だったが、不快を見せずに優しく微笑んだ。

それは母親の微笑み。

悔しいが、それには勝てる気がしないし、心が満たされていると実感せずにはいられない。


「まだ夜は始まったばかりだ。ニール、寝たほうがいい」

「スカールは?」

「……もう少ししたら、帰る」

「今から?」

「ああ」

「そう……」


服を引っ張ってお願いするような声音だった。

けれど、それに気づくつもりはない。

スカールは何も言わずにニールから離れた。





後悔はしない。

スカールは窓の外に広がる夜空を焼きつけるように見つめる。

この空は、ずっと見てきたのだろう。

大地が、無数に別れたあの時を。

ジュエルノーツの様々な歴史を。

そして、これから起こることも。

すべて。





愛する者を失くしても。

大切な者を傷つけても。

何百の罪を抱いても。

すべての人々の憎しみを受けても。

どんな言葉で自分自身を否定されても。

スカールはこの愚かな世界を破壊すると決めた。

解放すると決めた。

キャストは決まっている。

エンディングは決まっている。

あとは、シナリオ通りに演じるだけ。

準備が整った舞台に、上がる。


「俺の願いを叶えてくれ」


この世界は、この大地は、そこに生きるものの物だ。

支配者など必要ない。

彼女が苦しむ必要などない。





『誰もがもう二度と領王など望まぬよう、最後の領王は、悪である方が良い……』





ずっと捜していたはずだったんだ





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2010/10/10

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