クレスとコレット




何かが崩れるような散らばるような音がした。

続いて誰かの、複数の人間の悲鳴が聞こえる。

そして、また1つ破壊音。

敵襲かとこの街の自警団が集まってきた。

その場を見なくても、想像できた場面にクレスは苦笑した。

そして浮かぶのは、彼女は怪我をしなかっただろうかという心配。

クレスはすぐに音の発生源へと向かった。


「コレット、大丈夫かい?」

「あ、クレス。ごめんね、またやっちゃった」


荒れた室内。

壁には、人の型が1つ。

見たところ、コレットは無事だ。

彼女の幸運は素晴らしいが、本当に幸運ならばこういう事態には陥らないだろう。


「片付け手伝うよ」

「ありがとう」


壊れたものを外に出し、傷ついた壁や床を簡単に直す。

本格的に直すのは、明日以降になりそうだ。


「ねえ、クレス」

「ん?」


顔を向ければ、ホウキを握ったコレットと目が合う。

軍手で硝子や陶器の大きな破片を片付けていたクレスは、とりあえず手に持っていたものをバケツの中へ。

話に夢中になってうっかり……などという状況にならないように。


「クレスはどうしていつも助けてくれるの?」


コレットは純粋な疑問を真っ直ぐにぶつける。

その疑問に対する答えは、なかなか思い浮かばない。


「どうしてだろう……」

「じゃあ、質問を変えるね。嫌だなって思ったことはない?」

「ないよ」


即答できる質問だった。

コレットはいつも精一杯がんばっている。

わざと誰かを困らせようとしたりしない。

ふと答えの欠片が見えたような気がした。

がんばっているコレットが、その努力を否定したり、諦めたりしないで欲しかったのだろう。


「クレス?」

「あ、ああ。ごめん。僕はコレットの手伝いがしたいんだよ」

「?」

「友達だからだよ。コレットだって、僕が困っていたら助けてくれるだろう?」


うんうんと彼女は頷いた。

そこでわかったのか、ふわりと笑った。

いつも思うけれど、とクレスは心の中で前置きをした。

花のような優しい笑み。

だから、彼女の笑顔に癒されたり救われたりする人間が多いのだろう。

惹かれる人間も多いのだろう。

それに笑顔だけでなく――……。


「終わり!」


うっかり思考に浸りすぎていたようだ。

彼女の声でハッと気づいた。


「あのね、もう1コお願いしてもいい?」


割れた破片が入ったバケツを軽々持ち、控えめに尋ねた。

直ぐに頷くことができたけれど、その内容を聞いてみる。


「お礼にね、夕飯に誘いたいんだけど、いい?」



(2010/10/09)

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