ジーニアスとルビア




水辺に立つ銀髪の少年を見つけ、ルビアはそっと近づく。

一人で湖を眺めているようだ。

見つけた時は驚かせようと思ったが、近づいてみると彼の周りに集う空気に足を止めた。

霧状の水滴が、ジーニアスを中心に輪を作っている。

何をしているのか興味をひかれたが、邪魔をしては悪いと見守ることにした。

そう決めてわずか数秒。

彼の回りにある無数の水滴は一斉に地面へ落ちる。

優しい雨のように。


「ルビア、どうしたの?」


振り返る彼を見て、気づかれていたのかとルビアは肩を落とした。


「ジーニアスが何をしているのか気になって……。邪魔だった?」

「そんなことないよ。ちょっとね、新しい魔術(わざ)を……」


ルビアの瞳がキラリと輝く。

それは目映い宝石のような色。

声に出さずに教えてと頼む。

それに対して、ジーニアスは肩を竦めた。


「まだ考え始めたばかりだから、何もできないよ?」

「それでも、ジーニアスはすごいね」

「そんなにすごくないと思うけど……」


水面が揺れる。

ひんやりとした少し冷たい風。

足元の草も誘われるように揺れた。

一瞬の静寂。


「……みんなの力になりたいんだ」

「あたしも」


自分にできることを見つけたい。

誰かのために、自分のために、何かをしたい。

その気持ちは時に空回って、失敗をするけれど。


「そう言えばルビアって……」

「しっ!」


ルビアが唇に人差し指を当てる。

何があるのかとジーニアスは彼女の視線を追った。

二人のすぐ側で戯れる3羽の小鳥。

ピィピィと高い鳴き声とバサバサと羽を動かす音。

じゃれる様が愛らしい。

1分も経たないうちに、飛び立った。


「ジーニアス?」


彼は何かを思いついたらしく、企むような笑みをうっすら浮かべた。


「見てて」


水滴を手のひらに集める。

透き通った球体が、頼りなく上下に揺らいだ。

そのあと、パチンと割れる。

飛沫が辺りへ飛び散った。

それはルビアにも降りかかる。


「ちょっと、ジーニアス!」


ぐらりとルビアの体が傾いた。

危ないと思ったジーニアスが手を伸ばす。

掴んだものの重力には勝てず、派手な水音と共に湖に落ちた。


「……」


ぱちくりと状況を確認する瞬き3つ。

ずぶ濡れの二人は声をあげて笑う。

思いきりかぶった水は少し冷たかったけれど、気持ち良かった。

まるで、透き通る青空にいるみたいで。



(2010/10/08)

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