カイウスとノーマ




甘い、香りがする。

気持ちの良い夢の世界から、現実へと引き寄せられる。

けれど、脳も体もまだ眠っていたいと主張した。

甘い、香りがする。

甘い、甘い……。

がばっとカイウスは飛び起きた。

ただ、少し遅かったようだ。

最近の連戦が悔やまれる。

疲労が残っていなければ、もう少し早く動けたはずなのに。


「カッくん、おはよ」


カイウスの直ぐ前には、ノーマの笑顔。


「お、おはよ……」


ノーマはひきつったカイウスを更にひきつらせるものを取り出した。


「……何?」

「プリンパン。しかも、あたしの手作り。でもって、大成功パンだよ〜」


左手にパン。

ノーマは右手でピースサインを作った。

カイウスは力無く笑い、この場から逃げ出す方法を真剣に考え始めた。

以前ノーマが作ったパンは、砂糖の塊を詰め込んだようなもので、お世辞にも美味しいと言えなかった。

過去を思い出し、カイウスの全身を寒気が駆け抜けた。

今回、成功と言っていたが、残念ながら信用できない。


「ノ、ノーマ」

「何〜? 遠慮しないで食べていいよ」


語尾にハートマークが聞こえた。


「オレ、腹減ってないし」

「甘いものは別腹って常識でしょ」

「あんまり好きじゃないし……」

「ふふふ。カッくんのために、今回は甘さ控え目。あたしってば、超優しいよね」


逃げ道は閉ざされた。

誰か都合よく通りかかったりしないかと辺りを見回す。

残念ながら、カイウスを助けてくれるような人はいなかった。


「召し上がれ」


ニッコリと目の前に出されたプリンパン。

受け取る、以外にこの状況を変える方法が見つからない。


「い、いただきます……」

「うん」


諦め9割で食べたノーマの手作りプリンパン。

衝撃を覚悟していたけれど、口に広がったのはごく普通な味だった。

ぱちくりと夢か現かと疑いの瞬きを繰り返す。


「カッくん、どうよ」


胸を張り、自信満々なノーマ。

彼女のその態度には納得できた。


「普通に美味い……」

「なら、もっと美味しそうな顔しなさいよ」

「あ、ごめん」

「カッくん甘いもの苦手でしょ? この前のアレで嫌いになったらもったいないなって思って……」


大失敗なあのパンをカイウスに食べさせたことを反省していたらしい。

あの時より格段に美味しくなったパン。

カイウスは一口かじったそれを見つめた。


「ちょっと、何で固まるのよぉ」

「ん? えと、ノーマってさ、良いヤツだよな」

「……どこら辺から、そんな言葉が出てくるわけ?」


曖昧に笑って、彼女の質問から逃げた。

当然ノーマが素直に逃がしてくれるはずもなく……。


「止まれぇ!!」

「走りながら、詠唱するなって!!」


賑やかな鬼ごっこは始まったばかり。

……かもしれない。



(2010/10/01)

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