愛
「こんな所で何をしているの?」
小さな川に架かる橋。
わずかに弧を描く橋の中央に立つ彼に声をかけた。
チラリと向けられる視線は、まるで鋭利な刃物。
「何をしていようが、お前には関係ない」
「そうかしら」
「そうだ」
短すぎる言葉のやりとり。
けれど、無視されなかった分、今日は幾らか機嫌がいいのだろう。
アーリアは、彼の隣に立つ。
他人と友人の間に当たる距離に。
アースは一瞥しただけで、距離を取ろうとしなかった。
「分かっているのか?」
「何が?」
「オレは、ジェノスの一員なんだぞ」
「ええ。勿論」
微笑めば、ため息のような物を返された。
「分かっていない。お前は」
「アーリア。名前で呼んで」
「……」
「貴方が何をしたいのか、わたしには分からない。でも、救ってくれた過去は現実だわ」
半年前、魔物に襲われていたアーリアを救ったのが、アースだった。
大怪我を負ったアーリアには、戦う術も守る術もなく、死を覚悟した。
そこに現れたのが、ジェノスに帰る途中のアースだった。
それが、二人の出会い。
「……ただの気まぐれだ」
「けれど、その気まぐれのおかげで、わたしは今生きているのよ?」
突然アースは左手で、アーリアの首を掴んだ。
彼が少し力を入れるだけで、空気は通り道を塞がれる。
「今すぐ殺すことさえ出来る」
「ッ……」
声にならない。
唇を頼りなく震わせ、言葉を紡ぐ。
「……ゲホッ、ゲホッ」
「その状態で、詠唱するとはな」
「あら……。簡単に、殺されてなんかあげない、わよ?」
挑戦的な笑みを浮かべれば、何が面白かったのか、アースの表情が変化した。
ホントにわずかで、見逃しそうな一瞬だけ。
「アーリア」
「……何?」
「いや。無理はするな」
そんな言葉を聞くとは思わなかった。
驚き、間抜け面を晒してしまった。
「じゃあな」
右手を軽く振り、アースは歩いて行った。
アーリアは反対の道を、歩き出す。
数回交わる道。
けれど、決して平行にはならない。
愛?
間違ってもそんな物じゃない。
E N D
2009/08/15
移動 2011/01/20