ああ
「いつもより、飲み過ぎなんじゃないの?」
テーブルの上に並ぶ空の瓶を一本持ち上げた。
彼がここまで飲むのは珍しいと思いながら。
「アーチェ……か」
「ホント大丈夫?」
完全に飲まれた感のあるアーサーの前で手を振る。
いくらお酒好きでも、いつもはちゃんと考えて飲んでいる。
それなのに、何故今日は……。
「アーサー」
名前を呼ぶが反応はなく、グラス半分ほどの琥珀色の液体を一気に流し込んだ。
「ちょっ……!!」
焦るアーチェとは反対に、アーサーはやけに落ち着いている。
いつもより熱を持っている大きな手が、アーチェの頭に乗せられた。
「……大丈夫?」
「当然だ」
「そんなのでリーダーが務まるわけぇ?」
アーサーはフッと笑った。
それが意味ありげな笑みだったから、少し興味をひかれた。
「何?」
「娘というのは、こういう物かもしれないな」
「はい?」
確かに、彼の年齢とアーチェの年齢を見てみると、父娘と言っても問題はない。
ないのだが。
「アーサーの子なら、もっといい子だよ」
「そうか? アーチェは十分……」
寝てしまった。
言葉の続きが気になるが、今聞くことは叶わないだろう。
このまま放っておけば、風邪をひくかもしれない。
けれど、彼を運ぶのは無理だ。
数歩進んだら、潰される自信がある。
「……」
アーチェは暫く考えた。
考えたところで、浮かぶ案などそう多くない。
テーブルの上を片付け、アーサーに毛布をかける。
普段こんな風に寝顔を見る機会なんかない。
ちょっとだけ、得した気分になった。
ニコニコと緩む頬を叩き、アーチェはそこを離れる。
「おやすみ、アーサー」
そう声をかければ、
ああ
と短い返事が聞こえてきて、アーチェは笑った。
E N D
2009/07/20
移動 2011/01/20