恋から愛へ変わる瞬間




花畑では、真っ白な蝶が舞っている。

近くを流れる小川では、小さな魚が泳いでいる。

爽やかな風が通り過ぎていく。

気持ちよく晴れ渡った空の下、コレットは瞳を閉じて世界を感じていた。

まだ遠いけれど、近づいてくる足音。

それが誰のものだか、すぐにわかる。

コレットの口元に笑みが浮かんだ。


「コレット!」

「ロイド!」


彼が彼女の前に現れたのは、あれから少し経ってから。

いらっしゃいと迎えるように、コレットはロイドの名前を呼んだ。


「こんなところで何してたんだ?」

「日向ぼっこ」

「確かに気持ちいいもんな」

「うん!」


空に向かって伸びをするロイド。

その横顔は、とてもカッコ良かった。

ロイドは何をしてもカッコいい、コレットそうは思っている。

事実、会う度に彼のことをカッコいいと思うのだから。


「どうしたんだ、コレット」

「んとね、ロイドがカッコいいなって思って……」

「サンキュ。俺はコレットが可愛いって思ってるけどな」


ロイドには勝てない。

勝つつもりもない。

コレットは心なしか肩を落とした。

ロイドは誰にでも優しい。

それはいいことだとわかっていても、コレットの心は反発していた。

彼が向ける眩しい笑顔を、純粋な優しさを、心地よい声もすべて、独り占めしたいと叫んでいた。



(ロイドが光なら、私は影かな)



こんなにも黒い感情を飼っているのだから。


「コレット」


いつの間にかうつむいていた顔を上げる。

額にデコピン1つ。

地味に痛くて、コレットは膨れた。


「何か悪いことを考えてただろ」

「……気のせいだよ」


鈍いところが目立つロイドなのに、時々鋭い。

コレットもロイドに負けず劣らず鈍いが、本人に自覚はない。

お互い様だ。


「じゃあね、ロイドは今私が考えてることわかる?」

「当たり前だろ」


自信満々に、得意げな笑みを浮かべた。

ロイドの真っ直ぐな瞳に見抜かれる気がした。

けれど、彼の鈍さがそれを遮るかもしれない。


「俺と同じことだろ?」

「……え?」

「だから、コレットが今考えてること、多分俺と同じだぜ」

「ホントに?」


自信満々な笑みは崩れない。

本当に同じことを考えているのだろうか。

それは、嬉しいと奇妙な不快感が入り交じった感覚だった。


「えとね、私はロイドが好きだよ?」


自分が火傷してしまうような気がした。

改めて考える機会はないけれど、気持ちを伝えるのは多分難しい。


「俺だって、コレットが好きだぜ? でも……」

「でも?」


繋がる言葉に期待できない。

きっと、あまり良い話ではないはずだから。

コレットは耳を塞ぎたくなった。

逃げ出したい衝動に駆られたが、逃げられないことはわかっている。


「コレットが想ってるような“好き”じゃなくて、ずっと一緒にいたいって思う“好き”だな」





恋から愛へ変わる瞬間





title thanks『瞑目』



2010/09/24
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -