夢なら要らない




青い空がどこまでも広がっている。

青い海がどこまでも広がっている。

欠伸一つ、浮かぶ涙。

バカみたいに『平和』で、バカみたいに『幸せ』。

綺麗な白に塗られたベンチに座っていたアリスは、己の足を引き寄せた。

膝に顎を乗せて、わざとついたため息。

平穏も幸せもこのため息と共に逃げてしまえばいい。

居場所をなくした子どものような、不安に押し潰されてしまう。

こんな日だまりは自分の居るべき場所ではない。

場違いなことはわかっていた。

世界に拒絶される前に、世界を拒絶する。

否定することで自分の居場所を作る。

ああ、弱い。

大嫌いな言葉を吐き捨てた。

その言葉でアリスの中に残る弱さをすべて吐き出せたらいいのに。


「お姉ちゃん」


走ってきた子どもがアリスの手を握る。

途端に走った悪寒。

振り払いたいのに、その小さな手は決して離れない。


「お姉ちゃん」

「は、なして」

「ねえ、お姉ちゃん」


子どもの唇が残酷なまでにその言葉を紡いだ。


「……夢を、見たの」


隣で眠るデクスに、現実に存在する自分に語りかけるように。


「夢を見たのよ。今までずっと馬鹿にしてた、私なんかが触れられないと思っていた、未来の夢」


小さな自嘲が夜の部屋に溶ける。

一瞬音が消えた。


「夢を見たの。意外と嫌じゃない夢」


あのあたたかい場所は、決して不快感を抱くものではない。

けれど……。


「その夢を現実にすればいいよ」

「っ……、あんた、起きてたの!?」


うつ伏せの状態でデクスはアリスに顔を向けていた。

寝ぼけた様子でアリスを見つめている。

その瞳はいつもより優しいものに見えて、何だか落ち着かない。

悔しい、と素直な感情は喉の奥で消えていった。


「アリスちゃん」

「何よ」


デクスは嬉しそうに何度もアリスの名前を呼んだ。

いつもとはどこか違う声。

ぞわり、と体が反応する。


「オレはここにいるから。アリスちゃんは1人じゃないからね」


本当に馬鹿な男だ、とアリスは思う。

そんな馬鹿な男と共にいる自分も馬鹿なのだろうか。

音にならない問いかけに返事はない。

アリスは無駄な抵抗として、布団の上からデクスの背中を叩いた。





夢なら要らない
(強くあり続けるために)





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2011/07/06


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