夢なら要らない




※ほんのり流血表現注意






夢を見た。

誰に伝えるわけでもなく、デクスは独り言のように呟く。

この部屋にはデクスしかいないのだから、独り言にしかならない。


「夢を、見たんだ……」


月明かりが届かない部屋の扉に背を預け、少し声を大きくする。

うたた寝から目覚めたデクスは、自分が夢を見ていたことに気がついた。


「アリスちゃん、すっごく綺麗だった」


純白の衣装に身を包み、桃色の花のブーケを持っていた。

笑っていた。

滅多に見れない可憐な笑顔で、アリスはデクスに話しかける。

残念なことに、彼女が何を言っているのか聞き取れない。

聞き返しても、やはり聞き取れない。

アリスは少し膨れて、同じ言葉を繰り返す。

ゆっくり動く彼女の唇を見つめてその言葉を読み取ろうとするのだが、彼女の口元がぼやけてやはりわからない。

きっとデクス自身が喜ぶような言葉だと直感しているのだが、その内容がわからず愛らしい彼女の前で苛立ちを募らせてしまった。

幸せそうなアリスの背後に刃が見える。

見覚えのある刃。

キラリと光るそれは、死神の鎌に見えた。

スローモーションで動く世界。

デクスの体が動いたのは一瞬遅れてから。

必死に手を伸ばす。

彼女を守るために。

けれど、デクスの手が指がアリスに触れることはなかった。

デクスとすれ違う形で倒れていくアリス。

彼女の背後に立っていた人物の顔は逆光のようなものでよく見えないが、わかる。

デクスもよく知っている人物だ。


「デ、クス……」


倒れたアリスが名前を呼ぶ。

弱々しいけれど、この空間で初めて聞いた声。


「アリスちゃん、オレ……」


守れなかったと呟くデクスの声は弱々しく、情けない。

倒れた彼女を抱くことすらできなかった。

触れられない。

白を赤に変えた彼女も美しいと思った自分が許せない。


「今度は絶対に守るから。アリスちゃんにもらったこの命で、必ず守ってみせるから」


いきなり扉が開き、その衝撃によりデクスは床へ頭をぶつけた。


「あんたうるさいのよ。さっきからブツブツ何言ってるの!?」

「アリスちゃん……!」

「うるさいの。さっさと寝なさいよ。明日も早いんだから」


刺々しい彼女の言葉。

けれど、幻のように見え隠れする優しさ。

デクスは頭の中に居座る夢を追い払い頷いた。


「わかったよ。ねえ、アリスちゃん、一緒に寝――……」


デクスの数ミリ側をアリスの鞭が通りすぎる。

空気を切り裂く音が頭で反響した。


「明日6時に出発だから。遅れたら、捨てていく」

「……うん」


扉が閉まる直前、おやすみと言うアリスの声が聞こえた。





夢なら要らない
(現実で君と感じる風の方が愛しい)





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2011/07/06


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