渇望したのは光




※ほんのり狂愛チック?








吐き出したため息は凍る。

不意に通り過ぎて行った強い風が、体温を強引に奪った。

寒い寒い、と呪文のように呟く。

春が近づいても、フラノールは寒かった。


「コレット、何してるんだよ」


ニッと笑ったロイドが歩み寄ってくる。

一歩一歩、雪を踏みしめながら。

近づいてくる彼から逃げ出したくなったのは何故だろう。

答えは見つからない。

その隙にロイドはコレットの目の前に立っていた。

ふぅと白い息を吐き出す。

甘い匂いがした。


「コレット、こんなトコで何してたんだ? 風邪ひくぞ?」


ふふふ、とコレットは笑う。

怪訝に眉を顰めたロイドには答えない。

代わりにもう一度笑った。


「何か良いことがあったのか?」

「何もないよ」


コレットはロイドに背を向けた。

内側から溢れてくる笑いは止められない。

不格好な呼吸で誤魔化しながら、コレットは一歩進んだ。

短い雪の悲鳴が聞こえる。


「コレット?」


その場から動かずロイドは名前を呼ぶ。

もう一度呼んでほしいとコレットは心で思う。

願う。

もう一度、もう一度、もっと、もっと、もっともっともっと……。


「コレット、どうしたんだよ」


左手首を掴まれる。

グローブ越しに感じるロイドの手。

頬に浮かんだ笑みはただ幸せの色だけ。

けれど、心はもっと先の幸せを望んでいた。

もっと言葉が欲しい、と思う。

もっと触れて欲しい、と願う。

他の誰よりもロイドに近い位置に立ちたいと。


「コレット?」

「あのね、ロイド」


振り返ったコレットの顔は、先ほどまでの笑みが消えていて、無表情にも見える顔をしていた。


「あのね、私のこと、嫌いにならないでね?」

「何言ってんだよ。俺がコレットを嫌うわけないだろ?」

「そ……だよね」


うつむいた先には、踏みつけられた雪と二人の足。

ロイドはコレットの頬を少し強めに引っ張った。


「……」


無言の抗議をすれば、彼は優しい顔をして笑った。

本当にズルい笑顔だ。

負けを宣言するしかなく、コレットはへにゃりと笑った。


「ごめんね……」

「謝るなって言ってるだろ」


ロイドはコレットの頬から手を放した。


「そだね」

「ほら、そろそろ戻ろうぜ。風邪ひくって先生に怒られるからな」

「うん」


差し出された手を握る。

嬉しくて怖いと思いながら、コレットは雪を踏んだ。

手を繋ぐことで自分の気持ちが相手に伝わってしまいそうだから。

それは、ロイドも同じだった。

コレットをこの腕に抱きしめておきたい、と願っていた。

何者の目にも触れない場所に閉じ込めたい、と願っていた。

自分の呼び声にだけ反応すればいい、と思っていた。

いつの間にか生まれていた重度の独占欲。

側にいないと不安に押し潰されてしまう。






ぐちゃぐちゃ、ドロドロ。

感情の糸が絡み合った重く黒い愛情を持っているのは、二人とも同じ。

笑顔の膜で必死に包み隠しながら求めるのは、真っ白で穢れを知らないと信じている相手の存在だった。





渇望したのは光





title thanks『カカリア』



2011/04/29


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