理想郷はどこですか




※デクスが病み傾向?

※流血表現・殺人描写(?)注意








世界は、二人で良かった。

世界には、二人だけで良かった。

回る世界の中心にいるのは、二人だけ。

二人の世界へ踏み入る者は、すべて敵。

排除対象。

要らない人間。

存在が許されない人間。

『早く消せ』と誰かが叫ぶ。

頭の中で大きな音が鳴り響いていた。






「アリスちゃん?」

「ああ、デクス」


感情は読めないものの、いつもとほんのわずかだがトーンが違う。

ちらりと向けられた金の瞳は、無感情でただ疲労感を覗かせていた。

最近彼女は無理をしていたのだから当然だ。

体を休めなければならない時も、ろくに眠っていない。

そんな体であちこち行っているのだから、無理はない。

今日もアリスは総帥の命令でこの町へ来た。

数人の部下を連れて、ラタトスク・コアを手に入れるために。

町の入り口付近の街道。

その少し奥。

今、アリスとデクスはそこに佇んでいた。

じわじわと侵食する赤い水溜まりはアリスの靴を汚していた。

デクスの眉尻が下がる。


「アリスちゃん、離れて。汚れるよ」

「……別にいい」

「オレが困るんだよ。アリスちゃんに、血のニオイが移ること」


アリスは一歩足を引いた。

ピシャリと粘着力のある水音。

不愉快な感触だ。

アリスは奥歯を噛みしめる。

そして、憎々しく吐き出した。


「……ホント、役に立たない」

「大丈夫だよ、アリスちゃん。そいつらの代わりにオレが動くから」

「あのね、あんたは他にやることが……」

「……そうだね。アリスちゃんのために頑張らないと。おかしなことを言ってごめん」


へらっと笑う。

いつものように馬鹿みたいな笑顔。

それを見たアリスは、ほっと息を吐き出した。

そして、彼女もいつもの顔を見せる。


「デクス、何ニヤニヤしてんのよ。キモーい」

「酷いよ、アリスちゃん」

「ホントのことでしょ」

「そう言われても、オレは頷けないって……」






あの頃、世界には二人だけだった。

外の世界へ飛び出したばかりの二人には、確かに自分たちだけだった。

その他のものは、ただの背景にすぎない。

必要でも不必要でもない、ただの『その他』。

デクスには、アリスがいれば良かった。

アリスの力になれることが、幸せだった。

アリスと共にいられるのなら、己の命すら容易く差し出せた。

変わり始めたのは、ヴァンガードに入ってからだった。


「オレたちには、必要ない。アリスちゃんには、必要ない。こんなヤツらといたら、アリスちゃんが穢れるだけだ」


仲間だと認識したことはなかった。

都合よく使い、要らなくなったら捨てる道具。

捨てるのも面倒な不良品な道具。

道具がアリスの回りに群がっている。

気高い少女を堕とそうとする悪意。

聖域に土足で踏み入る人種。


「調子に乗るな」


目の前に立つ人間。

数は十人を越えているか。

ヴァンガードの戦闘班に属する人間。

その肩書きに吐き気がする。

素早く脳が要らない人間だと判断した。


「待ってくれ。俺たちは……!」

「サヨナラだ」


振り上げた刃で悲鳴を切り裂いた。

浴びた赤に汚される。

刃を振るう度、自分がアリスから離れてしまうような恐怖。

血の海に膝をつき、剣を支えに心臓付近を掴むように押さえる。

辺りを覆う鮮血のニオイに呼吸が乱れる。

乱れた呼吸は、壊れたような笑い声へと変わっていった。





理想郷はどこですか





title thanks『たとえば僕が』



2011/03/02


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