彼女は白い世界のただ一つの色彩




吐き出した息が凍る。

頭の奥がキンッと痛み、すべての感覚が鈍る。

鈍っているようで、研ぎ澄まされたかのように鋭い。

震える体に自嘲が浮かび、ゼロスは冷えきった柵へと身を預けた。

痛いくらいに冷たい。

世界を白く染めようとするその小さな結晶は、止むことを知らずに街を覆う。

自分が飲み込まれていく感覚を虚空を見つめることで感じていた。

埋もれて溶けて、消えてなくなればいいのに。

自分の声なのか、『誰か』の声なのか。

脳内に響いた声は、出口を知らないようで何度も繰り返された。


「ゼロス!」

「……コレットちゃん?」


コートは半分着た状態で、帽子は今にも脱げそうで、手袋は片方ないし、マフラーは引きずっていて。

まるで、着替えの途中で現れたような格好。

身だしなみを気にせず走ってきたコレットは、期待を裏切ることなく雪の中へダイブした。

勢いよく雪が舞った。

目の前で起きた小さな事件に瞬きを繰り返したゼロスは、慌ててコレットに駆け寄る。


「大丈夫か?」

「うん、平気。冷たいけど、雪がクッションになってくれたから」


恥ずかしそうに(冷たいからかもしれないが)頬を赤く染め、照れ笑いを見せた。

差し出した手を握るコレットの手は驚くほどに冷たかった。


「ねえ、ゼロス」


雪を払って、この冷気の中でも変わらずに笑みを見せる。

まるで、真夜中の闇を照らすランプのように柔らかなあたたかい笑顔だった。


「んー……?」


適当にも聞こえる曖昧な返事をするのは、言葉を発すると余計なことを口走ってしまうと恐れていたからか。

コレットに調子を狂わされることが何度かあった。

それを無意識に警戒しているのだろう。
自ら必死に閉じ込めてあるすべてを吐露してしまいそうになるから。


「ゼロスって、フラノールへ来るとよくいなくなるよね」

「そう?」

「一人になりたいのかもって思ったんだけど、今は一人にしちゃダメな気がして……」


コレットがうつむいて良かったと思う。

ガラスに映る顔を見なくても、どんな反応をしてしまったのかがはっきりわかった。


「ご、ごめんね。私が勝手に心配してこんなことしちゃ迷惑だよね。ゼロスだって」


彼女の口を手のひらで覆う。

ピクリと震えたのは、ゼロスの手が冷たかったからだろう。

すぐに手を離す。


「やっぱ、コレットちゃんは凄いねー……」

「ゼロス?」

「俺さま、敵わねぇや」


ゼロスが何を指して言っているのかわからず、コレットは難しい顔のまま首を傾げる。


「ちょっと、ごめん」

「えと、何が?」


最初に謝り、小さな彼女を抱きしめた。





彼女は白い世界のただ一つの色彩





title thanks『カカリア』



2011/02/25


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