mm | ナノ



小話
2012/10/14 23:22


『ご飯ですか?』
「そうだ、もしよかったらなんだけどな」

 既に仕事も予定もないことはリサーチ済みだった。御人好しの彼のことだ。きっと断ったりなんてしないだろう。
 そうわかっていても少しばかりディーノは不安だった。万が一ということもある。
(ツナが俺をよっぽど嫌いだったりしたら・・・・、とかな)
 それはない、筈だ。それ位好かれている自信はある。
 自慢でもなんでもなく自分は容姿の整っている方だと思う。今までの人生でずっと称賛され続けて来たから、そんなものなのだろうと。しかし正直そんなものはどうでも良かった。そういうことは自分が好意を持っている相手にだけ言われたい。いや別に言われなくてもいい。少しでもこっちを向いてくれる材料にでもなれば万々歳だ。しかし現在自分がアプローチをしている相手はそういったことには頓着しない性質だった。どちらかといえば中身を重視する。妙な話、自分の顔だけに靡いてくれるような子じゃなくて良かったと思う。そこがまた良いなぁと改めて惚れ直したりしている。まぁ何かなくても自分は何度も何度も好きだと思わされているのだが。
『ありがとうございます、是非ご一緒させて下さい』
「お、おう!」
 その相手が眼の前で花が咲き誇るように笑っているのがわかるような優しい声に、ディーノの顔はパアと輝いた。
 実はこれが初めてのお誘いだった。一目惚れに近い形だったのに何も言えずに終わった出会いから息子二人とその他諸々に邪魔され続けて数カ月。やっと成功したのだ!
『それで場所なんですが』
「おう、場所は俺が迎えに行くから心配すんな。着いてからのお楽しみってやつだな!」
『はい、わかりました』
 テンションの高くなったわかりやすいディーノにクスクスと受話器から聞こえる。可愛らしい声にディーノは少し赤くなる。こんなことだけで好きだなぁと思ってしまうのだ。本当は待ち合わせなんてしないで今すぐ顔が見たい。会いたい。あの細い身体を自分の腕だけで包み込んでしまいたい。そして円やかな頬をそっと包んで星のようにキスの雨を降らせたい。そんな願望ばかりが募るのだ。そんなどうしようもない自分と同じ位とは言わないから、少しでも自分を好きになってくれないだろうか。そんなことばかりを考えては溜息が出そうになる。しかし気付かれないようにと誤魔化すように続けた。
「じゃあ明日十二時頃迎えに行くからな」
『はい。あ、それと』
「ん?どうしたツナ」
『人数は何人位なんですか?』
「・・・・・へ?」


 しかし、御土産を人数分持って行こうと思うのでという、悪意の無いツナの疑問に沈没したのだった。



「フン、ざまぁねーな」
「抜け駆けしようとした罰だね」
「るっせーな!」

 っていうか何で当たり前の顔していんだよ!というディーノに、後部座席に座った息子二人は鼻を鳴らした。
 因みに相変わらず運転席に収まっているのはロマーリオである。これでデートに誘おうなんざちゃんちゃら可笑しいなとリボーンがせせら笑った。
「オメーみてーなケダモノとツナを二人っきりになんてさせるわけねーだろ」
「そうだよ綱吉と二人きりになるのは僕だもの」
「オメーも何言ってんだ雲雀」
「〜〜〜っ誰がケダモノだあああ!!」
 涙眼になって怒鳴る父親そっちのけで、息子二人はちょっとした(彼等にとって)喧嘩を始めようとしていた。



 まだ少し汗ばむ陽気だというのに、ぐるぐる巻きにマフラーを巻かれ、不自然な程着込んだ少年とそれに付きそうようにしている青年が一人。そして後からも眼鏡をかけた少年が黙って付いてきていた。青年の表情は不自然な程明るいが、着膨れた少年は不満げにしている。手を引いてくれている青年を見上げて言った。
「骸しゃーん、熱いれす。これ脱いでいいれすか?」
「駄目です。風邪が悪化したらどうするんですか」
「俺何処も悪くないびょん」
「黙りなさい犬。貴方は今。命の灯が今にも消えてしまいそうな重病人なんですから」
 真剣な顔をして言う青年、六道骸にヨーヨーで遊んでいた少年、柿本千種がぼそりと言う。その眼は何故かとても冷たい。
「骸様、沢田先生とお話したいなら素直にそうして下さい。付き合わされるのめんどいです」
「なんてこと言うんですか!それでも犬のお兄ちゃんですか千種。むくむくお兄ちゃんは悲しいですよ」
「気色悪いれす骸しゃん」
 普段との違いに犬が怯えたような顔をし、千種は人では無いものを見るような眼付きで骸を見やる。物凄く他人になりたかった。少し前までは他人にとってはどうか知らないが、自分達にとっては最高の兄で主人だったというのに。その原因である人にはなんの罪もないし、自分も少なからず好意(兄とは全く異なる)を抱いているので仕方ないとはわかっているのだが。
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ兄を生温かく見やっていると、目的地である建物の扉がからりと開かれた。
「六道君?」
「さ、沢田先生!」
「表で声がするから誰かと思ったら」
 今日はどうしたの?とふわりと笑う。
 あぁ正に天使!!
 骸は身悶えた。今すぐにでも抱きしめてキスをして自分のものにしてしまいたいが、嫌われてしまっては元も子もない。今まで着実に上げて来た信頼が水の泡だ。
「違います骸様。苦労していたのは俺達です」
「千種、人の心を読むのはやめなさい」
 自分を戒めようと言い聞かせる前に突っ込まれ、骸は微妙な顔をした。



「それで今日はどうしたのかな?」
「はい、犬が何やら拾い食いしたらしく、お腹が痛いと言うものですから」
「俺拾い食いなんてしないびょん!」
「嘘を吐くなんて見苦しいですよ犬」
「最低です骸様」
「千種は後で二人でお話があります。それから犬はもうちょっと病人らしく」
「ちょっといいかな六道君」
「は・・・・・、い?」
 声をかけられ振り向けば、直ぐ傍に綱吉がいた。背伸びをしてそっと手を伸ばされた骸は固まった。綱吉がこちらを見てくれるだけで普段は舞い上がる程嬉しいのに、こんな近距離でと考えた時点で骸の思考が暴走する。
 沢田先生が僕を見ている!僕だけを見ている!額にいま触れられているのは沢田先生の白魚のような綺麗な手・・・・!!白雪のような手が沢田先生の手が今僕をそっと包みこんでいる!!なんていうことでしょう今日はもう記念日!結婚するしかもうないのでは!
「んー・・・、やっぱり少し熱があるね」
「いや僕は、至って元気でして、それよりあの」
「六道君?」
「・・・・・・・・・・はい」
 だから診て貰う必要はないのだという骸の言葉は綱吉の琥珀の瞳によって封じられた。言えるわけがない。
 じっと見つめられ赤くなった骸はらしくなく小さく返事をして大人しくベットへ腰掛けた。それにうん、良い子だねとよしよしと頭を撫でられてしまえばもう顔も上げられない。骸は本当に上がって来た熱に降参して布団へと潜り込むことにした。


 そして数十分後。

「ちょっと、なんで綱吉の部屋に君がいるの!?」
「雲雀恭弥!?貴方こそどうして当たり前の顔をして、っといいますか今沢田先生を呼び捨てにしましたね!?」

 やってきた幼馴染に、骸にとっては最悪の起こされ方をされる。
 しかもファーストネームだなんて慣れ慣れしい!羨ましい!と熱り立つ骸に雲雀が自慢げな顔をしながらふんぞり返り、やがて勃発した喧嘩により止めに入ったディーノが重傷を負い、入院することになった為ご飯の話は先延ばしになったという。



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