2012/10/14 23:18 昔からそうだった。 「いいかツナ、正装した当日の俺は超カッコイイからな」 『うん』 「間違っても惚れるなよ?」 『わかった』 「・・・随分簡単に頷くじゃねぇか。オメー絶対惚れちゃいけねぇってホントにわかってんのか?」 『うん、わかったってば』 「・・・・・・・・」 『リボーン?』 「・・・いいか、もう一回だけ言ってやる。俺に惚れるんじゃねぇぞツナ」 『だからわかったって言ってるだろ、しつこいなー』 「しつこいとはなんだ人が折角言ってやってんのに」 『はぁ?わかったって言ってんのになんなんだよリボーン?』 「るせぇ、惚れるなって言ってんのに何フツーに頷いてんだオメーは。そこは、“なっ!?惚れたりなんかする訳ないだろっ!”とかなんとか言って業と口調を強く返して照れ隠しするとこだろーが。頬を染めてれば尚良し」 『なにキレながらわけわかんないこと言ってんだ?お前が言うから素直に頷いてるだけなのに』 (この、鈍感駄目ツナが) コイツの素直過ぎには困ったものだ。こっちの言葉の裏にある意図にちっとも気付きやしない。 苛立しげにグラスに口を付ける。この土地の地酒らしいが度数も高ければ匂いもキツイ上に後味も悪い粗悪の代物だった。この土地の気候に合わせて身体を温める為だけに作られたようなものだろう。だから酔いも回りやすい。これを買った店の店主は呂律の怪しい口調で薦めてきた。アルコール度数が高く癖があるこの酒は、地元の酒好きには大層人気だという。一度嵌まると世界の名だたる銘酒に見向きもしなくなるらしい。 (ふざけんな、これの何処がだ) だからきっと旦那も気に入るでしょうよ、と黄ばんだ歯を見せて笑った赤い顔を思いだし毒づく。実際は口当たりがマシという以外は長所はない。妙に薬品臭いような匂いに鼻に皺を寄せるが、この吹きっ晒しの屋上に一人でいるには些か手持ちぶさ過ぎた。 おまけに今日の日取りが悪い。昔だったら気にしなかっただろうに、毎年毎年間抜けな面をぶら下げた生徒がありきたりな言葉を贈って来るのだ。それが何時の間にやら当たり前のようになっていて、寧ろ現在何の音沙汰もないのにイラつく位になっているのだがら笑える。・・・・・いくら離れた所に来ているからといって、連絡の一つも寄越さないだなんて、恩知らずの駄目ツナめ! そんな怨念のようなものが伝わったのかやっとこさ着信があった。ディスプレイを睨みつけるようにしていたのでサイレントだというのに直ぐ気付いた自分はどうかしれいるかもしれない。 それから早速耳に飛び込んで来ると思ったのは祝いの言葉でもなんでもなく、少し先の会談のことだった。それに少し不満を覚えながらも気取られるのも癪なので何食わぬように答えていたらさっきの会話になった。気に食わない。色んなことが重なりリボーンの気分は最低だった。それを全く感じとらずに耳には10年前から全く変わらない暢気な声。 『あ、わかった疲れてるんだろ?こっちに寄るならエスプレッソくらい煎れてやるからさ』 「疲れてなんかねぇ、なんでそう取るんだオメーは」 『違うの?あ、じゃあ体調悪いのか?辛いなら無理しないで途中で切り上げてくれても別の誰かに頼んでみるし、』 「・・・別に体調も悪くねぇゾ」 『そう?でもなんか珍しく声に元気ないみたいだからそう思ったんだけど』 「・・・・・・・・・・」 ―こういういらないことには直ぐ気付く癖に。 リボーンは嘆息した。今更だ。思い返してみれば一緒にいた年月は何だかんだと一番長いのはツナで。コイツを選んだのは他でもない、誰でもない自分だ。 後悔もないしこの先何度でも思うのだろう。でも人間諦めが肝心だ。口癖ではないだろうが、そんなことを体現しているやつを偶には見習ってもいいかもしれない。 「明日中には帰る」 『え?そんなまだ着いたばっかなのに』 「俺を誰だと思ってやがる」 スコープから捕らえた、写真と同一の容姿の男を眺めながら尋ねる。そもそもコイツの所為でこんな僻地まで飛ぶ嵌めになったのだ。これで仕舞いにすれば全て片が付く。 声音からこちらの状況がわかったのか、暫しの沈黙の後にツナはクスリと笑った。 『最強で最高の凄腕のヒットマンで、俺の自慢の先生。だよね?』 「フン、わかってるじゃねーか」 『あんまり虐めるなよ?大して悪さも出来ないような人なんだから』 「脅す程度にしとくさ」 『・・・ほどほどにね』 受話器越しに聞こえる凶悪な笑い声に、ツナは苦笑しながら一応言っておく。あまり意味などないかもしれないが。 結局欲しかった反応は得られなかったが、まぁいいかとリボーンが携帯を切ろうとしたところで、ツナは思い出したようにさっきの続きなんだけどさと続けた。 『リボーンがカッコイイことなんてもう知ってるのに、今更どう惚れろっていうんだよ?』 「・・・・・っ」 純粋な疑問だけが込められた問い掛けに、惚れ直せばいいだけだろ駄目ツナめと言うのが精一杯だった。 (これだから天然タラシは・・・) 計算尽くで動く自分とは全く違うドン・ボンゴレに、そういう意味で敵わなくなったのはいつからだろうか。 今度こそ切った携帯を下へ転がし、飲みかけのグラスを煽る。さっきと変わらない焼けつくだけの味が悪くないものになっていたことに気付き、苦笑した。成る程、あの店主の言うとおりだ。 これは癖になるかもしれない。 comment (0) |