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小ネタ
2019/08/15 13:47

「約束だしね」
 
 最近、カルマの口癖はそれだった。
 渚の呼び名を変えてから。
 初めは周りも温かく見守っていたクラスメートも、段々と気付いてきた。
 (違う、あれは・・・)
 
「単純に、渚に・だ・け・甘いんだよ」
「え?」
 
 きょとんと見返してきた渚に嘆息した。
「やっぱ気付いてなかったのかよ」
「普通じゃないかなぁ・・・、ほら、何だかんだ優しいしさ、カルマって」
「元々渚にはなんだかんだ甘かったからの間違いじゃねぇ?」
「えぇ〜・・・」
『今じゃ甘いどころか溺愛ですね!』
「で、溺愛て、」
 
 リツが無邪気に笑うのに苦笑いしている渚だが、実際カルマは結構渚に対して甘かった。といってもカルマなりに、だからあまりわからないかもしれない。しかしそれは他の人間の対応に比べたら雲泥の差だ。優しさがさり気なくからあからさまに変わっただけで。
 
「あーツンデレかよめんどくせぇ」
「でも眼差しというか、雰囲気もとっても優しくなりましたよね」
「渚に対してが顕著過ぎるだけだけどな」
「そうかなぁ」
 
 不思議そうにする渚の眼には、カルマのそういった変化はあまりわからない。確かにふいに感じていた優しさを、隠さなくなった気はする。でもそれはきっと嬉しいことだから。
 
「てかあれは、単にタイミングを見失っていたというか・・・」
 
 本当は、ずっと素直に優しくしたかっただけで。
 
「あっれー、なーんの話してんの〜」
「「げっ」」
「俺も混ぜてよ」
 
 悪魔がにっこりと笑った。
 
 
 
 
 本当は、言い訳が欲しかった。
 渚に負けたから。だから仕方なく、言うことを聞いてやってるだけ。それだけだ。
 そしたら、渚に優しくしたって変じゃない。
 彼に笑いかけたって。命令だから。
 そう、これは自分の意思じゃなく、仕方なくやっていることなんだ。 
 (・・・そうじゃなくちゃ、死ぬほど恥ずかしいじゃん)
 
 周りにバレたって構わない。どうでもいい。
 死んでも本人には知られたくないけど、でも。

「・・・知って欲しいような気もするんだよねー」
「カルマ?」
「──なんでもないよ」
 
 笑って誤魔化して。
 でもいつか、全て素直になれたらいいと思う。
 
 
 
 
 
 ((これだから天邪鬼は・・・!!))
 
 
 
 
 「ほんと、タチが悪い」
 
 ボロボロになりつつ、E組は呻いた。
 
 
 
 

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