2012/12/03 18:23 「ケンジ、あの、さ、」 「なんだいムッ君」 また日々人君のことかな?とにこやかに尋ねたケンジに、相談があると言った六太はいつになく思い詰めたように頷いた。 六太の年の離れた弟である日々人は、中学二年生である。未だにサンタを信じているという弟に、今年もプレゼントを枕元に置こうとした六太は、そこに置いてあった手紙と一緒に同封されていたものに固まった。それは紛れもない、婚姻届。 ひらりと落ちた手紙には、 『サンタさんへ。この書類に判子お願いします』 と、書いてあったという。 「・・・・という訳なんだけど」 「・・・・・・・・・・」 俺はどうしたらいいんだろうと、婚姻届を前に置いて組んだ手を口許に寄せて呻いている六太に、ケンジはポンと肩を叩いた。 「ムッ君」 「ケンジ」 「かぺ!」 「いやそれだけ!?」 「大抵のことはこれでなんとかなるから」 「ならねぇよ!?」 見捨てるなよケンジー!と情けない声をあげる六太に、ケンジは苦笑した。 六太は弟で、年の離れた日々人をとても可愛がっている。ほぼ六太が育てたと言っても過言じゃない日々人はとても利発な子供だった。なので当然、サンタがいないことも、いつも六太がサンタに扮していることも知っている。しかしそうとは知らない六太はとても悩んでいた。六太には無邪気な様子で接している日々人の日頃の成果ともいえるだろう。 「なぁ、ケンジ」 「うん?」 「日々人は、サンタと結婚したいのかな」 「うーん、どうだろうね」 実際は六太と結婚したいのではとは言えないケンジは曖昧に笑う。そうとは知らない六太は真剣だ。 「俺、サンタとしてどう断ればいいのか。わからないんだよ。サンタは男っつーかおっさん?だし。男とは結婚出来ないし」 「・・・・・・・」 あ、気にしていたのはそこなんだ。ケンジが心で呟けば、六太はわしわしと頭を掻いて唸る。それから深く息をついて、ぽつりと呟いた。 「どう返事すれば、日々人が傷付かずに済むかなぁ、ケンジ」 「ムッ君・・・・・」 ケンジは淡く笑った。改めて訊いてみる。 「ムッ君はどうして悩んでいるの?」 「え、そりゃあ、日々人が、」 「うん、日々人君が?」 「・・・これでサンタがいないって知って、ショック受けないかってこととか。サンタとは結婚出来ないんだって知ってショック受けないかとか。・・・・・・・・・・こんな、もじゃもじゃしたのがサンタだって知ったらアイツ、嫌なんじゃないのかって」 世のサンタ像は大抵髭もじゃしてるから寧ろ大丈夫なんじゃないかなと言ってから、ケンジは笑った。 「結局ムッ君は日々人君がショック受けないかが心配なんだね」 「う、・・・・・まぁ、そうかもな」 顔を少し赤らめて、目線をずらしながらも頷く。 ケンジは優しく笑って言った。 「大丈夫、ムッ君。心配ないよ。これだけ日々人君のことを考えてるムッ君が出した解答なら、日々人君は喜んで受け入れてくれるよ」 だって日々人君は、ムッ君のことが大好きなんだからね。 親友の押してくれた太鼓判に、六太は苦笑しつつ有難うと言った。 もう少し考えてみると、手を降りつつ行ってしまった友人を見送りながらケンジは苦笑した。 (ムッ君、本当に気付いてないんだろうな) 兄である六太が来る前に、日々人がケンジの元にやって来たのは数日前のこと。 頭をペコリと下げて親友の弟である少年は言った。 「ムッちゃんとずっと一緒にいたいんですけど、どうすればいいですか」 それでついつい、結婚出来れば一番だろうけど。と言ってしまったのが悪かったのか。そのあとの彼の行動は早かった。 役所の場所を調べてから翌日書類を取りに行き、どう記入すればいいかなどを聞いてきたのだ。因みに書き間違った時用の予備の紙まで貰っていた。 「ムッちゃん、子供が成長するのは凄く早いよ」 つい先日、娘が将来は六太と結婚すると言いだしたのを思い出し、苦笑する。 本当は自分と。だなんて言って欲しかった筈なのに、ムッ君ならいいかなぁなんて思ってしまった自分がいた。 でもきっと、親友である六太は気付かないのだろう。 無意識に気付かないようにしているのか、まさか自分が愛されてるだなんて思いもしてない、常に後ろ向きな性格。よくよく知れば、愛される要素ばかりなのに。勿体ない。でもそれを知っているのが自分を含めた少数ということもなんだか嬉しいのだ。 でもその内、本当に独り占めされてしまうかもしれない。 笑顔で有難うございますと言って帰っていった日々人の背中を思い出し、ケンジはちょっと寂しくなって小さく笑った。 それから数日後。 「日々人に結婚してくれってちゅちゅちゅちゅーされ、うわああああああケンジ助け!」 「落ち着いてムッ君!家族は結婚出来ないから!」 「そ、そっかそうだよなって、そう言う問題じゃ!」 完全にパニックを起こした六太が真壁家に転がりこんできたことに、本当に思ったより行動が早かったなぁとケンジは感心したとかしなかったとか。 comment (0) |